平成27年度までの研究では主に、flaky tailマウスを用いた実験でアトピー性皮膚炎(AD)の病態における角層pH恒常性機能の重要性を、ハプテンを用いたADモデルマウスを用いた実験で、角層pHの弱酸性維持の重要性について示すことができた。平成28年度は、ADの病態研究と関連し、ADの治療標的となりうるperoxisome proliferator-activated receptor (PPAR)αについての研究成果を報告した。PPARαは角層pHとも関連のある因子であり、そのagonistは、過去の研究でADの治療に有用であることが示されているが、その詳細な機序は分かっていなかった。研究代表者らは、培養ヒト表皮角化細胞において、PPARαのagonistが、ADの炎症惹起に重要と考えられているthymus- and activation-regulated chemokine(TARC)とthymic stromal lymphopoietin(TSLP)の発現を下方制御することを見出した。 本研究全体を通して、ADにおける角層pH恒常性機能、角層pH弱酸性維持の重要性を示唆する成果を、動物実験で確認、報告できた。さらに角層pHと関連のあるフィラグリン蛋白やPPARαの研究を、培養ヒト表皮角化細胞を用いた実験で成果をあげ、報告することができた。一方、当初目標としていたヒトでの臨床研究は、実験を一部開始したものの、まだ十分な結果が得られていない。今後は、基礎研究のみでなく、実際の臨床応用への発展を目指した計画立案を検討していく予定である。
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