研究課題/領域番号 |
25860970
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
柳下 武士 愛知医科大学, 医学部, 助教 (40387816)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 多汗症 / 汗腺 / 汗管 / 塩化アルミニウム / 角化 |
研究概要 |
掌蹠の多汗症に塩化アルミニウムの外用療法が奏効するがその作用機序は明らかにされておらず、本研究ではその作用機序を明らかにする目的で研究を遂行している。 本年度は1、塩化アルミニウム外用治療をうけた患者の皮膚組織から病理学的変化を検証。2、ヒト角化細胞培養系にて塩化アルミニウムの分子生物学的、生化学的変化の観察を行った。1に関して塩化アルミニウム外用治療後の皮膚生検組織(手掌や前腕)と正常皮膚(未治療)のパラフィンまたは凍結組織を用いて組織学的変化を観察した。塩化アルミニウム塗布により角質内の汗の開口部(汗管)に角質が凝集した(角栓)を認めた。好酸性無構造物質が角栓であるかの確認は、種々のケラチン抗体を用いた免疫組織染色を行って確認した。また、その他の成分(ムコ多糖類など)も含有しているかどうか調べるため特殊染色(PAS染色など)を行った。さらにより深部の汗腺組織である表皮内と真皮内汗管や汗腺分泌部など汗腺組織全体の変化も観察した。2に関して1の結果から、塩化アルミニウム外用により角化の亢進を示す結果が認められたことから、HaCaT細胞を培養し塩化アルミニウム処理前後で角化マーカー(ケラチン1,10、フィラグリン、インボルクリン)の発現変化をPCR法で解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩化アルミニウム塗布により角質内の汗の開口部(汗管)に好酸性無構造物を認めた。この無構造物はPAS染色陽性で、汎ケラチン(AE1/3)、サイトケラチン5/6で陽性に染色されることから、ムコ多糖類やケラチンを含む角質からなることがわかった。この角質塊が表皮内汗管内に閉塞するように存在し、塩化アルミニウムが塗布されていない皮膚切片では見られないことから、塩化アルミニウム塗布により、表皮内汗管内を閉塞する事で、治療効果を発揮することが考えられた。またアルミニウムと選択的に結合することによって強い蛍光を発するルモガリオン誘導体を用いた蛍光染色で解析を行い、上述の表皮内汗管内に閉塞するように存在する角質塊に一致して蛍光が得られたこと、表皮ケラチノサイト内には蛍光は確認されなかったが、角層内汗管部位の角層下表皮ケラチノサイト近傍まで蛍光が確認されたことから、塩化アルミニウム自体がケラチノサイトに角化を促している可能性が示唆された。この結果をふまえ、HaCaT細胞を培養し塩化アルミニウム処理前後で角化マーカー(ケラチン1,10、フィラグリン、インボルクリン)の発現変化を解析した。まずHaCaT細胞の塩化アルミニウム処理の条件検討を行い細胞死を起こさない塩化アルミニウム水溶液の適切な濃度を決定し、実験には0.005%と0.05%を用いた。これらの濃度でHaCaT細胞を培養し経時的に早期角化マーカーであるケラチン1と10、晩期角化マーカーであるフィラグリン、インボルクリンの発現をリアルタイムPCRにて解析した。塩化アルミニウム暴露12時間後、24時間後で塩化アルミニウム濃度依存的にケラチン1と10の発現が亢進した。一方、フィラグリン、インボルクリンに関しては発現の変化は認めなかった。上記角化マーカーの発現変化をmRNAレベルで確認したことから、蛋白レベルでも解析していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、塩化アルミニウム治療前後での形態学的変化をより詳しく解析する。塩化アルミニウム外用により、汗腺の変性を生じたとの報告が1報(Hölzle E et al, Br J Dermatol. 1984. 110: 399-403.)あるが、本実験において角質層の変化はあるものの、深部に存在する汗腺の腺体自体に変化は観察されなかった。このことから、塩化アルミニウム外用による汗腺組織の微細構造の変化有無をとらえるべく、電子顕微鏡を用いた解析も行う。さらに汗腺細胞に発現し、発汗機能に関与する分子(アクアポリン5, V-ATPase, NKCC1, FoxA1など)の発現量の変化も免疫組織学的に解析する。角化の亢進に関して、HaCaT細胞だけではなく、正常表皮ケラチノサイト初代培養細胞を用いた同様の解析を行っていく。 またルモガリオン誘導体を用いた塩化アルミニウム外用後の皮膚組織切片上のアルミニウムの局所分布、進達度解析において、症例数増加や外用期間別に区別するなど、より詳細に解析することで、塩化アルミニウムの治療効果や作用機序の解明にせまりたい。またアルミニウムの局所分布、体内蓄積の有無等の解明から塩化アルミニウム外用治療の安全性にも言及していきたい。
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