研究実績の概要 |
掌蹠多汗症に塩化アルミニウムの外用療法が奏効するがその作用機序は明らかにされておらず、本研究ではその作用機序を明らかにする目的で研究を行っている。 前年度では塩化アルミニウム塗布により、ケラチン(AE1/3)陽性、PAS染色陽性の角質が凝集した角栓が表皮内汗管内を閉塞する事で、治療効果を発揮することが示され、塩化アルミニウム外用により角化の亢進を示す結果が認められたことから、HaCaT細胞培養系における塩化アルミニウムの角化への影響を調べた。 本年度は前年度に得られた結果をもとに、塩化アルミニウム治療前後での形態学的変化をより詳しく解析を行った。本実験において角質層の変化はあるものの、深部に存在する汗腺の腺体自体に組織学的変化は観察されなかった。このことから、塩化アルミニウム外用による汗腺組織の微細構造の変化有無をとらえるべく、塩化アルミニウム塗布1ヶ月経過した皮膚と1年以上長期にわたって外用を行った皮膚を用いて電子顕微鏡を用いた解析を行った。電子顕微鏡解析では塗布1ヶ月、1年経過した皮膚ともに汗腺組織に構造的変化は観察されなかった。このことより塩化アルミニウム外用により汗腺組織自体への影響はないことが示された。さらにHaCaT細胞以外にも正常表皮ケラチノサイト初代培養細胞を培養し塩化アルミニウム処理前後で角化マーカー(ケラチン1,10、フィラグリン、インボルクリン)の発現変化をリアルタイムPCR法で解析した。塩化アルミニウム暴露12時間後、24時間後で塩化アルミニウム濃度依存的にケラチン1と10の発現が亢進した。一方、フィラグリン、インボルクリンに関しては発現の変化は認めなかった。以上のことから、塩化アルミニウムは表皮ケラチノサイトに対して角化を亢進させることがわかり、塩化アルミニウム自体による角化の亢進が表皮内汗管内を閉塞する事でその治療効果を発揮していると考えられた。
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