統合失調症の治療抵抗化に抗精神病薬によるドパミンD2受容体(DRD2)の継続遮断によって惹起されるドパミン過感受性精神病(DSP)が関与するとの仮説を立て、特にDRD2とその内在化に関与するGRK6・ARRB2に着目し研究を進めた。1)疫学研究:治療抵抗性統合失調症(TRS)患者147名に面接を実施し、DSPエピソードの有無を評価したところ約70%の患者にそれが認められた(昨年度の研究実績に既に報告)が、本年さらに非TRS患者(一般的な患者)も対象とし合計265名に評価を行った。その結果TRS患者では75%にDSPエピソードが認められたが、非TRS患者では21.6%であった。DSPエピソードを経験はTRS化に高いオッズ比(19.7)で関与していた。2)DSP動物モデルにおけるGRK6・ARRB2: 患者・健常者の血清試料に両タンパクをELISAにより定量したが、結果は安定しなかった。そこでハロペリドールの慢性持続投与によりDSPモデルラットを作成し、両タンパクの変動を測定した。これらのラットではメタンフェタミンに対して過感受性状態にあり、線条体のDRD2が1.3倍に増加していたが、これは統合失調症患者の先行研究での結果と一致しており、DSPモデルとして妥当なものと考えられた。さらに線条体中のGRK6・ARRB2をELISAにより測定した結果、ARRB2が対照群と比較して減少傾向にあり、かつGRK6/ARRB2値が有意に増加していた。GRK6とARRB2はDRD2の細胞内取り込みに加えて、ドパミンシグナルへの深い関与も知られ、GRK6・ARRB2システムがDRD2を介した抗精神病薬の効果発現に中心的な役割を果たしていることが指摘されている。今回の研究で判明した両タンパクの変動は、DRD2の増加に伴う離脱精神病や、抗精神病薬の効果が減弱する耐性などの現象を引き起こし、DSPの生物学的基盤となる可能性が示唆された。
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