研究課題/領域番号 |
25860994
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井口 善生 金沢大学, 医学系, 博士研究員 (20452097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大うつ病 / 慢性ストレス / ストレス脆弱性 / SSRI反応性 / 意思決定 / 意欲 / 中脳辺縁ドパミン系 / ラット |
研究概要 |
慢性的なストレス状態は大うつ病(MDD)発症の重大なリスクファクタであるが,慢性ストレスによりMDD発症に至る脆弱個体と,強いストレス耐性/自然快復力を備えた個体が混在している。また,MDD治療の第1選択薬であるSSRI/SNRIに対する反応性にも大きなばらつきがある。MDDに関連したこれらの個体差を病前に予測できれば,MDD発症予防や発症後の治療最適化が可能になる。MDDにおいてダメージを被る認知-行動機能として,中脳辺縁ドパミン系が関与する意欲や柔軟な意思決定が知られているが,このことは,意欲や意思決定の生理的な個体差が慢性ストレス反応性や治療薬反応性の個体差と関連している可能性を示唆する。本研究の目的は,ラットを用いて意欲や意思決定の個体差を反映する新たな行動課題を確立し,この課題のパフォーマンスから慢性ストレス/治療薬反応性が予測できるか検討するとともに,このようなMDD関連性の個体差に内在する脳内分子メカニズムをドパミン系において探索することである。 平成25年度は, Progressive ratio(PR)スケジュールのオペラント条件づけにおいて動物が払ったコスト(報酬を得るためのレバー押し回数)のセッション間変動をクラスター解析することで,outbledラット(Sprague-Dawley)を4つの亜群(低意欲・高意欲・習慣性行動・目標志向性行動)に分類した。申請者はさらに,この4亜群が中脳辺縁ドパミン系が関与する意欲と意思決定の個体差を反映していることを詳細な行動解析から明らかにするとともに,慢性ストレスを負荷したとき異なる行動学的表現型を示すことを発見した。これらの結果は,各個体の慢性ストレスに対する脆弱性や障害されやすい認知機能をストレス負荷前の意欲や意思決定のスタイルから予測可能であることを示唆し,MDD発症予防への道を拓く成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,PRスケジュールのオペラント条件づけにおけるラットのパフォーマンスが彼らの意欲や意思決定の個体差を反映した指標といえるのかどうか,そのパフォーマンスに基づき統計学的に妥当な方法で意欲や意思決定のスタイルを異にする亜群分類が可能かどうか,もし可能なのであればこの亜群のそれぞれに慢性ストレスを負荷したときのストレス反応性に有意な亜群間差がみとめられるのかどうか(=慢性ストレス脆弱性に対する予測能を有するかどうか),の3つの問題を段階的に検討することを当初目標としていたが,このすべてを完遂することができた。申請時点で我々がもっていた予備実験のデータから,PR法によりラットは3つの亜群に分類されると予測していたが,実験の精度と被験体数を増やして本実験をおこなったところ,4亜群に分類されることがわかった。今後,慢性ストレス負荷後の4亜群の治療薬反応性の違いを検討することを考慮すると,亜群の数が1増加することは研究の全体計画にとって有利に働く可能性が高い。 一方,各亜群の慢性ストレス負荷前と後の中脳辺縁ドパミン系(VTAや側坐核,背側線条体)における発現分子の比較は,平成25年度中に達成すべき目標としながら完遂することができなかった。これは平成26年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本申請計画の最終年度であり,当初計画の通りに,平成25年度の研究において同定された慢性ストレス反応性を異にする4亜群のMDD治療薬(SSRI, escitalpram, 10 mg/kg)反応性及び脳内分子メカニズムの検討を行う。上述したように,平成25年度に予定されていながら完遂できなかった課題として,4亜群の慢性ストレス負荷前及び後の中脳辺縁ドパミン系発現分子の同定があるが,これは平成26年度の課題と並行して実施することは十分に可能である。計画通りに本研究が完遂された暁には,MDD発症の重大リスクファクタである慢性ストレスに対する反応性(特に,MDD様行動の発現に至る脆弱個体の特定),並びにMDD治療薬であるSSRIに対する反応性の個体差を,ストレス負荷前に予測することが可能になる。これは,MDD発症予防や治療最適化に向けた臨床研究に繋がる前臨床研究として,大きな価値がある。
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