研究課題
大うつ病(MDD)のリスクファクタの一つに慢性ストレスがある。しかし,同じストレスを経験しても全ての人がMDDを発症するわけではないし,発症したとしても,その症状には個体差がある。このようなストレス反応性の個体差の発生に関して,ストレス負荷前の時点まで遡った検討はほとんどない。そこで本研究は,ラットに慢性ストレス(4週間)を負荷する実験系を用い,ストレス前後で様々な行動を測定した。そしてストレス前に測定した複数の行動指標を用いてラットをサブグループ(亜群)に分類し,亜群間でストレス反応性に違いが認められるか,検討した。平成25年度の検討では,食物報酬を用いたオペラント条件づけ(プログレッシブ・レシオ法)を数日間ラットに訓練したとき,その成績の推移に顕著な個体差を認めた。この成績をクラスター分析し,約80匹のラットを4つの亜群に分類した。平成26年度には,この4亜群の生理的な(ストレス負荷前の)行動特性について検討を進めた。その結果,マイルドなうつ状態を示す「低意欲」群,感情高揚性気質の「高意欲」群,学習が速やかな「高速学習」群,一旦学習したルールへの固執性を示す「低速学習」群,を同定した。この4亜群に慢性ストレスを負荷したときの特徴的な反応として,「低意欲」は意思決定の柔軟性の遅発的な喪失,「高意欲」は長期的な意欲の低下,「高速学習」は一時的な意欲の低下,「低速学習」は長期的な不安の増大を,それぞれ示した。これらの結果は,ストレス負荷前の個体の行動特性からストレス反応性を予測できることを示唆し,MDD予防や治療最適化への道を拓くものである。さらに,MDD病態と関わりの深い側坐核の分子機構の違いや,MDD治療薬であるセロトニン選択的再取り込み阻害薬への反応性の個体差についても検討を開始したが,これらについてはまとまった結果を得るまでには至らなかった。今後の検討課題とする。
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Frontiers in Behavioral Neuroscience
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PLoS ONE
巻: 9 ページ: e114024
10.1371/journal.pone.0114024