研究の目的:広汎性発達障害早期診断プロトコル確立に向けた一助として、社会的コミュニケーションの観点から、定型発達児と広汎性発達障害児の脳での「音声情報処理メカニズムの違い」の解明を行う。特に言語の韻律(Prosody)変化に関わる脳内メカニズムの解明に焦点を当てた。脳の右半球は意思疎通に重要な役割を果たしていると言われるが、社会的コミュニケーションと脳内音声情報処理メカニズムの関係性については明らかにされていない。これを明らかにすることができれば、定型発達児と社会的コミュニケーションが苦手な広汎性発達障害児との脳活動の違いや広汎性発達障害の原因解明につなげていくことができる。 実施した研究:右利き健常成人20例を対象に、自閉症の素質についてAutism Spectrum Quotient という国際的手法で評価し、その素質と、音声のプロソディ―変化に関連んする脳機能活動について脳磁図計を用いて測定し、検討した。課題は、イントネーションが平坦な「ね」、と抑揚のある呼びかけたように聞こえる「ねぇ」を同一人物の声で録音し、音声編集ソフトでこの2 種類の音声をランダムに配列した。Prosody 変化を的確に捉えるため、この2 つの音声のフォルマント・音量・duration の条件を揃えた。意味のない音声「ぬ」「ぬぅ」についても同様に作成した。脳磁図計でとらえた脳の反応の解析は、空間フィルタ法を用いた。 解析の結果:自閉症尺度が高いほど、呼びかけの音声である「ねぇ」に対する右側頭葉の反応(Beta帯域の事象関連脱同期)が著しいことが判明した。自閉症に関連した素質は、人の呼びかけに対する脳の反応性と関連していることを示し、2013年PLOSONEに成果を英文論文として発表した。
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