研究実績の概要 |
近年、免疫系と神経系がサイトカインを介して双方向性の密接なネットワークを形成していることが明らかになり、精神障害におけるサイトカインの役割が注目を集めるようになってきた。うつ病や自閉症スペクトラム障害(ASD)においても一部のサイトカインの血中濃度が上昇していることが過去に報告されている。本研究では、神経心理学的特性を含む詳細なASD特性および抑うつ症状とサイトカインとの関係を調べることで、臨床場面で有用なバイオマーカーの開発を行うことを目的とした。とくに、本研究においてはASDを初めとする精神障害の中間表現型候補としても注目されている認知機能に注目した。 初めに、9歳から15歳の15名の自閉症スペクトラムのある子どもを対象とし、ウェクスラー知能検査を実施した上で、マルチプレックスアレイによって、インターロイキン(IL)-1β, IL-2, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL-10, GM-CSF, IFN-γ, TNF-αの血清濃度の測定を行った。さらに、274名の成人に対して同様に血中サイトカインの測定を行い、ウェクスラー知能検査と自閉症スペクトラム指数(AQ)スコアの測定を行った。一部の成人対象者に対してはハミルトンうつ病評価尺度も実施した。 その結果、子どもではIL-6の血中濃度がウェクスラー知能検査における言語理解指標と有意な負の相関を示した。一方で、成人では、IL-6をはじめとする血中サイトカイン濃度は認知機能、AQ、およびうつ病評価尺度と有意な関連は認めなかった。 本研究の結果からは、高濃度のIL-6によって認知機能発達が妨げられるため発達段階におけるIL-6がASDに特徴的な認知機能のアンバランスの要因となっている可能性が示唆された。
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