うつ病患者の社会機能の1つとして、具体的な日常生活動作である自動車の運転技能に着目し、健常対照群との比較において、うつ病患者の運転技能の実態を把握し、運転技能と認知機能、症候学的評価、処方薬との関係を検討することで、うつ病患者の社会機能を向上させる要因を明らかにすることを企図した。 最終年度までに、うつ病患者70名(42±7歳)と健常対照群67名をリクルートした。研究参加者は、運転免許を有し、運転歴があることを確認している。うつ病患者の多くが寛解しており、処方内容は、抗うつ薬単剤率64%、ベンゾジアゼピン併用率61%、抗精神病薬併用率33%であった。また、うつ病患者群は健常群に比し、教育歴、運転頻度、年間走行距離、社会適応度が有意に低く、抑うつ傾向が有意に高い結果であった。うつ病患者群の運転技能は健常群と統計学的有意には異ならなかったが、認知機能については遂行機能課題の一部で成績低下が認められた。患者群の運転技能はばらつきが存在し、年間走行距離が有意に影響していた。患者群の運転技能と背景情報、認知機能、症状評価尺度の関係について、重回帰分析を行った所、年間走行距離が弱いながら有意に運転技能に影響していた。患者群の運転技能について、健常群範囲内と範囲外の2群で検討したところ、処方薬の偏りは認められず、社会適応度と年間走行距離が有意に異なった。社会適応度については、カットオフ値で2群に分けて検討した所、運転技能が有意に異なっていた。 これまでの研究実績から、うつ病患者の運転技能はばらつきがあるものの、健常者に比して有意な低下は認められず、向精神薬の慢性投与は、運転技能に強く影響しない可能性が示唆された。むしろ、走行距離などの運転行動や自記式社会適応度が影響し、これら要因が社会機能の評価として重要であることが示唆された。
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