研究課題/領域番号 |
25861002
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 美智子 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (50647625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精神神経学 / 統合失調症 / 神経科学 / ゲノム / 遺伝子多型 / 中間表現型 / 後部帯状回灰白質体積 / TCF4遺伝子 |
研究概要 |
統合失調症リスク遺伝子TCF4は、ヨーロッパ系白人に対象者を絞った統合失調症の大規模な全ゲノム関連解析(GWAS)により見出された遺伝子である。本研究の目的は、TCF4遺伝子多型の中間表現型及び機能解析を行うことである。これまでに、さらに被験者数を増やしたGWASより、最初のGWASにおいて同定したTCF4遺伝子多型とは異なるTCF4遺伝子多型がいくつか同定されてきている。しかし、これらの遺伝子多型を、日本人を含むアジア人において調べてみると、遺伝子多型ではないものや遺伝子多型の頻度がcommonと言われる基準である5%以下であるなど、TCF4の遺伝子多型の頻度には人種による違いが存在することが分かった。これまでに、中国人サンプルを用いた再現研究において、白人のGWASで同定された遺伝子多型近傍の遺伝子多型rs2958182が統合失調症患者と関連することが報告されている。しかし、この遺伝子多型の機能はよく分かっていない。この遺伝子多型rs2958182は日本人にも共通して存在する遺伝子多型であったため、機能解明のために統合失調症で障害される認知機能、生理機能、脳構造を用いた中間表現型解析を行った。224名の統合失調症患者において、遺伝子多型rs2958182と様々な中間表現型との関連を検討した結果、リスクTアレルを持つ患者は、非リスクジェノタイプを持つ患者と比べて、統合失調症でスコアが低いことが知られている自記式性格傾向を見る質問紙であるTCIの新奇性追求が低いことを見出した。また、125名の統合失調症患者と333名の健常者において、リスクTアレルを持つ患者は、非リスクジェノタイプを持つ患者と比べて後部帯状回の灰白質体積が小さいことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日本人におけるTCF4遺伝子と統合失調症の関連、さらに、そのTCF4リスク多型のTCF4遺伝子発現やスプライシングに対する影響や、統合失調症にて障害される認知機能、脳構造、神経生理機能との関連についての検討を行うことを目的とする。これまで、ヨーロッパ系白色人種を対象とした統合失調症のGWASにおいて、統合失調症に関連するTCF4遺伝子多型がいくつか同定されている。しかし、これらの遺伝子多型は、日本人を含むアジア人では遺伝子多型ではないものや遺伝子多型の頻度が5%以下であり、TCF4の遺伝子多型の頻度には人種による違いが存在することが分かった。これまでに、中国人サンプルを用いた白人を対象とした統合失調症GWAS結果の再現研究において、ヨーロッパ系白色人種のGWASで同定された遺伝子多型近傍の遺伝子多型rs2958182が統合失調症患者と関連することが報告された。日本人においても、このTCF4遺伝子多型rs2958182は存在するが、このTCF4遺伝子多型の機能はよく分かっていないことから、アジア人統合失調症のTCF4リスク遺伝子多型と考えられる遺伝子多型rs2958182の中間表現型解析を行った。その結果、この遺伝子多型が統合失調症で障害される性格傾向や脳構造と関連することを見出した。TCF4遺伝子は、これらの中間表現型を介して統合失調症の病態に関わっている可能性が考えられた。引き続き、この遺伝子多型が遺伝子発現やスプライシングに対する影響や、TCF4遺伝子内の他の遺伝子多型で、日本人統合失調症と関連する遺伝子多型が存在するかを検討していく。研究はここまでおおむね計画通り遂行できているため、引き続きTCF4に着目して、統合失調症の分子遺伝学的基盤を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に、既に確立された体制により効果的、効率的に健常対照群および患者群のリクルートを継続して行っていく。中間表現型解析を行ったアジア人統合失調症患者と関連するTCF4遺伝子多型rs2958182以外にも、日本人において、統合失調症とさらに強く関連するTCF4遺伝子多型があるかを検討する。収集したサンプルを追加した統合失調症及び健常者サンプルを用いて、TCF4遺伝子全体をカバーする遺伝子多型を選択して、日本人において遺伝子内で最も関連するリスク多型を同定する。また、統合失調症由来の死後脳、芽球化細胞、iPS細胞を用いて遺伝子多型の遺伝子発現量やスプライシングバリアントの発現への影響を検討する。我々が包括的遺伝解析研究として発足した脳表現型の分子メカニズム研究会や国内外の学会においても成果発表をしていく。さらに新聞発表などのマスメディア、インターネットなどのアウトリーチにて研究成果を社会・国民に発信していく。 TCF4を見出したGWAS以外にも、GWASにより統合失調症と関連するいくつかの遺伝子多型が同定されている(ZNF804A、MIR137、NRGN、CSMD1、CNNM2など)。また、遺伝子発現調節に関わるmicroRNAが統合失調症の病態に関与しているという報告がいくつかある。そのmicroRNAの1つであるMIR137遺伝子多型がGWASで見出され、MIR137の結合するターゲーット領域としてこれまでにGWASで見出された遺伝子多型領域が含まれることが分かってきた。このように、これまで個々に考えられていた遺伝子多型が、分子メカニズムの面でいくつかに収束する可能性がある。そこで、TCF4遺伝子多型とGWASにおいて既に報告のある他の遺伝子多型との相互作用を検討することにより、統合失調症の分子遺伝学的基盤から病態メカニズムを明らかにしていく。
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