研究課題/領域番号 |
25861003
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
梅田 知美 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (00625329)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | miR-137 / SH-SY5Y細胞 / 統合失調症 / レチノイン酸 / BDNF / 突起進展 / 中間表現型 |
研究概要 |
統合失調症は特有の症状によって規定される多因子性の症候群であり、家族集積性が高く、遺伝要因と環境要因の両方によって発症すると考えられているが、その発症機序はいまだ不明のままである。本研究では、統合失調症の全ゲノム関連解析によって見出されたmicroRNAとしてmiR-137の細胞レベルでの発現変動およびその機能について検討した。また、統合失調症と関連が示唆されているCSMD1、C10orf26、CACNA1C、TCF4がmiR-137の標的遺伝子として報告されていることから、統合失調症におけるこれら遺伝子の作用機序の解明を行うことを目的として検討を行った。ヒト神経芽細胞株SH-SY5Y、ヒト神経膠芽腫細胞株A172等の複数のヒト神経系細胞株やリンパ芽球を用いてmiR-137の発現レベルを調べたところ、SH-SY5Y細胞に高発現していることが確認された。SH-SY5Y細胞はビタミンA誘導体であるレチノイン酸(RA)によるプライミング後、BDNFで刺激すると突起伸展を観察することができる。この実験系においてmiR-137の発現変動を調べたところ、突起進展が進むとmiR-137発現は増大した。この結果を受けて、miR-137の標的遺伝子でかつ発現が認められたC10orf26、CACNA1C、TCF4についてmiR-137と同時に発現変動を調べた。その結果、miR-137発現が増大する前にC10orf26、CACNA1C、TCF4発現が低下することから、本実験系ではC10orf26、CACNA1C、TCF4はmiR-137の標的遺伝子ではないことが示唆された。さらに、miR-137発現をノックダウンして突起進展との関連を検討したが、その影響は認められなかった。以上の結果からSH-SY5Y細胞のRA/BDNFによって誘導される突起進展にmiR-137は関与しないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトやマウスの培養神経細胞において、miR-137がCSMD1、C10orf26、CACNA1C、TCF4や予測される他の標的遺伝子の発現を抑制しているかどうか、miR-137発現調節を行い評価すること、また、miR-137やその標的遺伝子が神経細胞の増殖、分化(突起進展)に関与するかどうかを検討することが目標であった。ヒト培養神経細胞SH-SY5YにmiR-137やC10orf26、CACNA1C、TCF4の発現が確認できたことから、本細胞を用いて検討を進めることとした。SH-SY5Y細胞はRA/BDNF刺激をかけると突起進展が起きることから、その前後でmiR137やC10orf26、CACNA1C、TCF4の発現変動を定量PCRにより調べた。その結果、miR-137発現が増大する前にC10orf26、CACNA1C、TCF4発現が低下し、C10orf26、CACNA1C、TCF4はmiR-137の標的遺伝子ではないことが示唆された。さらに検証を進めるために、miRCURY LNA Inhibitorを用いたmiR-137ノックダウン系を構築し、miR-137の発現抑制が突起進展に影響するかどうかを検討した。RAプライミング後、BDNF刺激前後でmiR-137発現をノックダウンして突起進展の観察を行った結果、miR-137の発現を抑制しても突起進展は引き起こされた。また、SH-SY5Y細胞の増殖にmiR-137の発現抑制は影響しなかったことから、SH-SY5Y細胞においてmiR-137は増殖やRA/BDNFで誘導される突起進展に関与しないことが示唆された。 以上のことから、ヒト神経培養細胞においてmiR-137とRA/BDNFで誘導される突起進展との関与やmiR-137と標的遺伝子の関連は認められなかったが、平成25年度に予定していた研究がおおむね達成されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト神経培養細胞SH-SY5YにおいてmiR-137とRA/BDNFで誘導される突起進展との関与やmiR-137と標的遺伝子の関連は認められなかったが、マウス初代神経細胞での検討を行い、神経細胞の増殖、分化(突起進展)とmiR-137の関与について結論を出したい。また、神経系におけるCSMD1、C10orf26、CACNA1C、TCF4以外のmiR-137の標的遺伝子の探索についても試みたいと考えており、マウス初代神経細胞のmiR-137の発現制御を行った試料でマイクロアレイに供し、標的となる候補遺伝子の選定と解析を進めていきたい。最近のmicroRNA研究においては、その役割として標的遺伝子のmRNAの切断や分解よりも翻訳阻害の方が大きいと言われている。平成25年度に行った実験系では、定量PCRでの解析を中心に進めていたが、タンパク質発現レベルでの検討も必要であることが考えらえる。今後進めていく予定であるマウス初代神経細胞系では標的遺伝子とそのタンパク質発現レベルについても検討していきたい。 近年、microRNAと疾患との関係が注目を集めており、癌などについては疾病マーカーとしての可能性を示唆する論文が多数報告されている。研究協力者である橋本亮太准教授は、動物・細胞レベルの最新の知見に基づいてヒト脳機能の分子機構を解明することを目的とし、遺伝子と広範なヒトの表現型の関連を検討するヒト脳表現型コンソーシアムを運営しており、統合失調症患者および健常者由来血液サンプルを収集している。これらの臨床サンプルを用いて統合失調症の疾病マーカーになるかどうかを検討することが可能である。血漿中のmiR-137を測定できるかどうか、測定できた場合、統合失調症の疾病マーカーとして有用かどうかについても検討を行っていきたいと考えている。
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