研究実績の概要 |
本研究は、抗うつ薬のような副作用を認めない低侵襲な新たな生物学的な治療法をうつ病に対して開発することが目的であった。 ニューロフィードバック(Neurofeedback:NF)とは,被験者が脳機能検査中に自分の脳活動をモニターでリアルタイムに見ながら,自らの脳活動コントロールを学ぶことである。 うつ病患者において,情動刺激に対する前頭葉の機能異常が報告されている。情動刺激に対する前頭葉の機能障害をNFを用いて改善できれば,うつ病治療に有用な可能性があると思われた。 まず,うつ病患者が情動調整障害を呈しているという病態仮説を証明するために,うつ状態および寛解状態のうつ病患者を対象に情動語課題を用いて、近赤外線スペクトロスコピィ(NIRS)による脳機能測定を行い、健常人との差を明らかにした(Matsubara T, Neuroimage, 2014; Matsubara T,70th Society of Biological Psychiatry,Toronto,Canada,2015)。 次に、情動刺激に対する脳機能変化を調整するための手段として,うつ病の症状改善にエビデンスのある認知療法の1つであるマインドフルネスから呼吸法を用いることとした。前述の情動語課題から陰性の情動語を抽出したうえで,陰性の情動文課題を作り,それを情動刺激とした。 本年度,それらを用いてNIRSNFシステムを完成させ、健常人を対象とした前頭部NFを行ったところ、1)検査前後で被験者の陽性情動が有意に低下しており,情動文刺激は刺激課題として有効な可能性を認め,2)NFは気分を改善する有意な効果があるとともに,陰性刺激に対して,前頭部機能を上昇させることを明らかにした(松原敏郎,健常人における情動文課題中のNIRSを用いたニューロフィードバック第38回日本生物学的精神医学会,福岡市,2016年9月)。
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