異食とは、通常食欲の対象とならないものを摂食する行動を指す。認知症者における異食については、進行期の重篤な認知機能障害や口唇傾向を背景に起こると考えられてきた。これまでに認知症者における異食は、アルツハイマー型認知症だけでなく、前頭側頭葉変性症などの認知症においても生じることが報告されており、クリューバービューシー症候群の口唇傾向の一つとして考えられてきた。しかし、クリューバービューシー症候群における口唇傾向は、全ての対象物を口で確認しようとする衝動で、その行動は口の中へ対象物を入れ、物品を確認する行為である、とされており、実際に異物を嚥下を伴う異食とは異なると考えられる。 本研究では、意味記憶の障害と異食の関係を検討するため、左側頭葉と右側頭葉のどちらかに限局性の脳萎縮が生じている意味性認知症患者を対象に、異食に関する調査・比較研究を行った。 その結果、左側優位に委縮がみられる場合にも調味料を多く加えるなどの食行動に変化がみられたが、特に右半球に優位に委縮がみられる意味性認知症者に顕著に多くの食行動の変化がみられることが分かり、萎縮がみられる大脳半球の優位性により、出現する食行動異常が異なる傾向があることが示唆された。 さらに、左側優位に委縮がみられるSDにおいて異食はみられなかったが、右側優位に委縮がみられるSDでは、認知機能検査の得点が高いにもかかわらず、2名の患者に非食物を口に入れるという異食がみられた。また、異食がみられた2名を対象に、視覚性の意味記憶の障害と異食の関係を明らかにするため、視覚性の物品同定検査を施行したところ、非食物同定率(非食物を非食物と回答することができた割合)がその他の被験者よりも低く、積極的誤反応率(非食物を食物と回答した割合)も高かった。このことから、視覚性の意味記憶の表象の障害も異食と関連している可能性が示唆された。
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