研究実績の概要 |
本研究の目的は、ストレス脆弱性形成のメカニズムを脳内免疫の観点からミクログリアのエピジェネティクスに着目して解明することである。幼少期に母子分離を行ったラットは、幼少期の前頭前皮質(PFC)においてTNF-alphaの発現が低下しており、これはグリア細胞数の低下による可能性が示唆された。一方で、海馬におけるTNF-alphaの発現は上昇した。また、母子分離ラットは強制水泳試験における無動時間の有意な増加を認めた一方で、HDAC阻害薬である酪酸ナトリウム(SB)は母子分離によるストレス脆弱性形成を改善することはできなかった。 LPS投与 (5mg/kg, i.p.)によって、持続的な海馬ミクログリア活性化状態下のマウスは、自発運動量に変化がない一方で、強制水泳試験における無動時間の有意な延長を示した。SBの繰り返し投与は、LPSにより延長された無動時間を低下させるとともに海馬ミクログリアの活性化を抑制した。次いで、LPSおよびSBを投与したマウスの海馬から単離したミクログリアにおける遺伝子発現変化をcDNAマイクロアレイによって網羅的に解析した結果、LPSによって上昇する303個の遺伝子、SBによって低下する280個の遺伝子見出した。これらのうち、重複するものは67個であり、この中にはミクログリアの活性化にかかわるとされるドメインであるEF hand calcium binding domain 1が含まれていた。一方で、LPSによって減少する遺伝子は251個であり、SBによって上昇する遺伝子は238個であり、また重複する15個の遺伝子を見出した。LPSで低下し、かつSBで上昇する15個の遺伝子に着目して解析を進めたところ、免疫応答、マクロファージの機能調節や抗うつ薬の作用機序にかかわる可能性が報告されている遺伝子が明らかとなった。
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