研究課題
若手研究(B)
生体内の糖、脂質、アミノ酸の酸化・還元、過酸化に由来する種々の反応性カルボニル化合物は、AGEs(advanced glycation end products:終末糖化合物)を形成する。このような非酵素的タンパク質修飾反応が亢進している状態は、カルボニルストレスと提唱されている。また、およそ2割の統合失調症患者において、AGEsが蓄積したカルボニストレス状態であることが報告されている。我々は、カルボニルストレスが統合失調症の病因の1つである神経発達障害に関わっていると考え、カルボニルストレスと神経発達障害との因果関係を明らかにすることを目的としている。本年度は、カルボニルストレスの消去に関与するGLO1遺伝子にフレームシフト変異(365 番目のシトシンの欠失)を持った統合失調症患者から樹立したiPS細胞を用いて解析を行った。iPS細胞中のAGEsを測定したところ、患者由来iPS細胞では特定のタンパク質のAGE化が亢進していた。分化誘導によってiPS 細胞からNeurosphere を作製したところ、健常者由来iPS 細胞と比較して患者由来iPS 細胞ではNeurosphere への分化効率が低下した。そこでiPS 細胞の培養時にカルボニルストレスを軽減するピリドキサミンを加え、その後Neurosphereへの分化誘導を行ったところ、患者由来iPS 細胞の場合のみNeurosphere への分化効率が上昇した。これらの結果より、神経幹細胞や神経前駆細胞への分化にはカルボニルストレスが関与し、カルボニルストレスを軽減することで神経分化の異常を回復させることが可能であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、統合失調症の病因の1つである神経発達障害にカルボニルストレスがどのように関わっているか明らかにすることを目的としている。本年度の研究では、カルボニルストレス性統合失調症患者の探索を行い、患者由来T細胞の収集およびT細胞由来iPS細胞の樹立を行った。更に患者由来iPS細胞を用いてNeurosphere への分化効率の解析を行った。Neurosphereから神経細胞への分化効率の解析については、分化条件の検討が進まず、解析を行うことが出来なかった。上記のように、申請書に記載した研究計画をほぼ実行できたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
次年度においても、本研究の解析サンプル数を増やすため、カルボニルストレス関連遺伝子にナンセンス変異やフレームシフトを持つサンプルの収集を進める。また、研究計画の予定通りにTALEN、CRISPR/Cas9などのゲノム編集によってカルボニルストレス関連遺伝子を破壊・修復したiPS細胞を作製し、カルボニルストレスが神経発達や神経分化に影響を与えるか解析を進める。更にこれまで得たデータを詳細に検討し、整理して論理的な解釈を導き、論文化することに注力する。また、得られたデータよりパテント申請できるものを検討する。
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Neuron
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The British Journal of Psychiatry
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