研究課題
若手研究(B)
幼若に生まれる哺乳類のこどもには効率よく親の養育行動を引き出すため、愛着行動が本能的に備わっている。例えば四足哺乳類の親が仔を口でくわえて運ぶ時、仔は運ばれやすいように “輸送反応(TR)”を示す。TRは不動と姿勢制御から成り、親の輸送をまねて実験者の指で仔の背中の皮膚を軽くつまみあげても誘導できる。仔マウスを使った予備実験より、TR中は痛覚閾値が上がることが分かった。TRは愛着行動の一つと考えられるが、その神経機構の多くは不明である。一方、ヒト乳児も親が抱いて歩くと泣き止み、おとなしくなることはよく知られている。ヒトにも輸送反応に相当する反応がある可能性が高いが、乳児がおとなしくなることの意義や神経機構は不明である。そこでヒト乳児と仔マウスを用いて、親に運ばれる時に子(仔)で起こる鎮静化反応について比較研究を進めた。その結果、いずれも親に運ばれるとただちに自発運動量、泣(鳴)く量、心拍が低下し、副交感優位となることが明らかになった。親に運ばれると、子(仔)は行動レベルでおとなしくなるだけでなく、生理的なレベルでもリラックスすることを実証することができた。TRはヒトとマウスで保存された反応であると考えられる。仔マウスを使ってさらに解析を進めたところ、不動反応には首背部の触覚および固有感覚、そして姿勢制御には小脳機能が必要であることが明らかとなった。生後発達解析より、TRは離乳前に一過的に起こる仔特有の反応であることが分かった。また、TR中は尾、耳介、前後肢いずれに侵害刺激を与えても痛み応答が起こりにくい。この痛覚閾値上昇は、事前にオピオイド受容体の阻害薬を投与しても見られた。したがってTR中はオピオイド非依存的なメカニズムで全身性に鎮痛が起こることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト乳児と仔マウスでの比較研究より、親に運ばれると、いずれも同じ行動・生理変化が起こることを明らかにした。TRはヒトとマウスで保存された反応であると考えられる。TRは自発運動量・発声量・心拍の低下といった複数の反応から構成される鎮静化反応であることが明らかとなった。仔マウスでの詳細な解析より、TR構成要素には、さらに姿勢制御および痛覚閾値上昇も含まれることが分かった。生後発達解析より、個々の発達曲線を作成して、変化のパターンを明らかにすることに成功した。TRは離乳前だけに起こる仔特有の反応であることが分かった。行動実験より、TRを障害すると母マウスが仔を運ぶ効率が落ちることが示された。したがってTRには母親の輸送を助ける機能があると考えられる。上記一連の成果について、査読付き国際科学誌2報、国内学会1件にて発表を行うことができた。成果は国内学の多くのメディアを通して報道され、大きな反響を呼んだ。現在までのところ、研究進捗状況および成果発表ペースいずれにおいても順調であり、当初の目標に達成している。
TR中の痛覚閾値上昇を制御する神経基盤の同定に向けて組織形態学的実験を進める。同定された脳部位に侵襲処置を施し、応答変化の有無を調べる。脳部位同定は予備実験も含め、順調に進んでおり、既に解析が終了した部分もある。今年度は主に確認作業を進め、侵襲実験に着手する。
研究代表者の出産・育児による3ヵ月間の研究中断期間があったため、残額が生じた。TR中に起こる痛覚閾値上昇に関わる脳部位を同定するため、組織形態学的実験を進める。実験に使用するためのマウスの購入、脳切片作成・染色関連および侵襲実験関連の試薬を購入する。また論文発表に関わる印刷費、学会発表を行うための旅費に助成金を使用する計画である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Frontiers in Zoology
巻: 10 ページ: 1-11
10.1186/1742-9994-10-50
Current Biology
巻: 23 ページ: 739-745
10.1016/j.cub.2013.03.041
Journal of Comparative Neurology
巻: 521 ページ: 1633-1663
10.1002/cne.23251.
http://asb.brain.riken.jp/index_j.html
http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130419_2/