研究課題
若手研究(B)
近年の大規模ゲノムワイド関連解析をはじめとした生物学的研究により、統合失調症と気分障害という2つの主要精神疾患の病態生理の間には少なからず類似性が存在することが示されている。本研究では、統合失調症患者と気分障害患者を対象とし、候補遺伝子の多型を決定するとともに、中間表現型として想定されている認知機能と統合失調型パーソナリティを評価することで、これら2疾患の連続性・非連続性を検討する。まず、455名の健常成人サンプルにおいて、統合失調型パーソナリティ尺度と気質性格尺度の得点について潜在プロフィール分析を行った。主要な結果は、統合失調症の陽性症状に対応する因子の得点が高いにもかかわらず適応的なパーソナリティ特性を有する一群が特定されたことであり、この群では認知機能が正常ないしむしろ高機能であった。本研究結果から、統合失調型パーソナリティと精神病理の間には複雑で非線形の関係が存在する可能性が示唆された。さらに、双極性障害や統合失調症との関連が示されているANK3遺伝子の一塩基多型rs10994336とrs10761482が、双極性障害の中間表現型である認知機能にどのような影響を与えているかを調べた。Rs10761482のリスク多型を保有している双極性障害患者では、保有していない患者に比べ、言語理解、論理的記憶、処理速度の成績が有意に低く、リスク多型を保有している健常者では、保有していない健常者に比べ、実行機能と視覚性記憶の成績が有意に低いという結果が得られた。したがって、ANK3は認知機能に影響を与えることで双極性障害と関連する可能性がある。これらの結果から、統合失調症と気分障害の病態において、遺伝的要因が中間表現型に影響を与え、それによって発症に関与している可能性が示唆された。しかし、上記の知見は疾患の複雑な病態生理の一部を明らかにしたにすぎず、さらなる包括的検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
一定規模の統合失調症患者や気分障害患者、健常者に対し、ゲノム解析と統合失調型パーソナリティ・認知機能の評価を行い、有意義な結果を複数得ており、それらを学術雑誌上で順次発表してきているため。
被験者のリクルートを継続し、ゲノム解析、統合失調型パーソナリティ・認知機能の評価を行う。最終的には、これらの結果を包括的に扱った解析を行い、統合失調症と気分障害の病態生理解明の一端となるエビデンスの供給を目指す。
当初の研究計画から若干変更が生じ、さらにサンプルを集積した後に物品の購入や学会発表を行うこととしたため。遺伝子解析に必要な試薬(TaqManプローブ、DNA Polymerase)や学会発表のための旅費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件) 備考 (1件)
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