平成24年度に行われた世田谷区の全分娩施設を対象とした妊産褥婦のメンタルヘルスについてのコホート調査のデータを解析し、児童虐待のハイリスクとなる母親の要因を検討した。その結果、虐待傾向の危険因子としては、自閉症傾向、子どもの数が多いことが挙げられた。また、虐待の危険因子としては、注意欠陥多動障害の傾向、子どもの数が多いこと、若年、家事ができないこと、があげられた。さらに、国立成育医療研究センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科外来を受診している、自閉スペクトラム症の母親の育児上の問題点を抽出したところ、児が思い通りにならないことに対するいらだち、児に対して押しつけの傾向があり感情に対する共感性の乏しさを多くの母に認めた。また、否定的感情や攻撃性が強くより児童虐待のリスクの高い症例では、周囲と関係性を気づきにくく、孤立しやすい傾向が見られた。これら、育児困難を来しやすい自閉症傾向をもつ母親に対して、有効性が示唆された介入として、子どもの発達に関する心理教育により理屈で児のニーズを説明すること、母子合同面接にて児に対して受容的な言動を治療者が具体的にモデリングすること、プレイセッションをビデオで録画して視覚的に母の児へのかかわりで良いところを母に見せ良い育児行動を強化すること、また、録画ビデオのフィードバックの中で児の行動から伺われる気持ちを示すことで共感性を促進するような心理教育が有効と考えられた。 自閉症傾向を持つ母には、その認知特性により育児困難を持ちやすく、持っている困難さに応じた育児支援が必要であることが示唆された。どのような育児困難を持つかは多様であり、母のニーズに合わせたテーラーメードの支援が必要であると考えられた。
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