研究課題
若手研究(B)
近年、固形腫瘍内には周期的に低酸素-再酸素化サイクルを繰り返す間欠的低酸素領域が存在し、血管からの距離に依存して起こる慢性低酸素とは異なる生物学的作用を持っていることが明らかになりつつある。申請者の先の研究においても、間欠的低酸素暴露されたがん細胞が放射線抵抗性を獲得することを明らかにした。しかし、放射線治療後に生残した間欠的低酸素馴化細胞の転移性の変化というものについて全く明らかとなっていない。本課題では、「間欠的低酸素が血管近傍のがん細胞の形質を変化させ、放射線治療後も生き延び、その後の再発、転移の一因になっている」と仮説を立て、これをin vitro、in vivoの両面から検証することを目的とした。25年度では、細胞の転移能を評価する指標として、migration assayおよびinvasion assayの評価系の確立を試みた。その結果、ヒト肺腺がん由来であるA549細胞、ヒト乳腺がん由来であるMDA-MB-231細胞を用いて、細胞移動能、および浸潤能を良い再現性をもって評価することが可能となった。放射線照射後に起こる転移能の変化を検討するために、X線照射したがん細胞の培養培地を、他の細胞に処理することで移動能、浸潤能が上昇することが明らかとなった。さらにそのメカニズムとして、X線を照射したがん細胞において、ある液性因子AのmRNA量が上昇することや、培養培地中でのAの濃度が上昇することを明らかにした。これまでの実験により、放射線照射後の細胞転移能の変化を明らかにする上で重要なin vitroでの実験条件が整備され、次年度に行う間欠的低酸素曝露による転移能に対する効果を評価する事が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の当初掲げた目的のうち、①間欠的低酸素および放射線照射後のがん細胞の転移能変化を評価すること、②その変化に関する分子シグナル経路を明らかにすることについて、一定の成果が得られた。まず、放射線照射後に間接的に起こるがん細胞の遊走、浸潤能の上昇を明らかにし、そのメカニズムについても一部明らかにした。間欠的低酸素の影響について少し時間がかかっているが、26年度以降、精力的に行っていく予定である。以上の理由から、現在までの達成度については、おおむね順調に進展していると評価する。
25年度に確立した転移能評価系を用いて、間欠的低酸素によるがん細胞の悪性形質に対する影響を引き続き検討する。また、特に臨床上、低酸素が問題となるグリオーマ細胞についても検討し、in vitroだけでなく、マウス脳室内に接種したモデルにおいても人工的間欠的低酸素曝露および放射線照射を行った際のがん細胞の浸潤能の変化を明らかにする。加えて、研究の進行状況に応じて、本研究から得られた結果を取りまとめ論文発表および学会発表の形で成果の報告を行う予定である。
当初25年度に実施予定であった間欠的低酸素による細胞転移能変化に関する評価について、その解析に必要となる低酸素培養装置の導入が遅れたために遂行できなかった。そのため、関連する消耗品の購入を先送りし、相当する額の研究費を26年度の研究に使用する。この次年度使用研究費の使途としては、未検討であるin vitroの実験における研究用試薬の購入に使用するとともに、当初計画していたin vivoの実験に必要な実験動物や関連する消耗品の購入費、ならびに論文作成・英文校正用の費用、国内外学会発表用の旅費、通信費およびデータ整理等の研究補助に対する謝金等として使用する予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (28件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://vetradserver.vetmed.hokudai.ac.jp/radiobiol/index.html
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