研究課題
スポットスキャニング陽子線照射法は、正常細胞への被曝を最小限に抑える優れた照射法である反面、標的の僅かな動きに対する照射精度の著しい低下が問題とされてきた。これに対し本学では、動体追跡スポットスキャニング陽子線照射装置(RGPT)の開発を日立製作所と共同で行ってきた。この装置は、腫瘍近傍に配置された金マーカーをX線透視でモニタリングしながら、マーカーが所定の位置に来たときのみスキャンを進めるため、呼吸性移動する腫瘍に対して照射精度低下を抑制することが可能である。昨年より、すでに肝臓や前立腺の治療に対して、安全に臨床適用されてきた。しかし現状、加速器から低エネルギーのビームが供給されないため、体表面から比較的浅い位置にある、呼吸性移動腫瘍(主に肺腫瘍)に均一な線量を投与するのは困難であった。本研究では、この問題を解決するために、浅い腫瘍に適用可能で、かつ陽子線照射と同時に金マーカーのモニタリングができる装置(SRA-RGPT)を設計開発した。SRA-RGPTは、エネルギー吸収体とミニリッジフィルタを合体させて作られており、前者で陽子のエネルギーを落としながら、後者でブラッグピークを適度に滑らかにすることで、浅くて呼吸性移動する腫瘍に対しても一様な線量分布を作成し、さらに照射に必要なエネルギー数を低減することで治療時間を短縮化できる。また、照射ノズルに手動で取り付けできるよう、フレーム部分も軽量化が行われた。開発された装置を用いて治療計画用のビームデータを測定し、肺がん患者に対する陽子線治療計画を作成したところ、正常肺に対する線量を十分耐容線量以下に抑えながら、腫瘍に対して均一な線量を投与できることが確認された。また、患者の呼吸性移動データを用いて照射シミュレーションを行ったところ、どの計画も呼吸性移動に対して十分ロバストな分布が短時間で作成できることが明らかになった。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Physica Medica: European Journal of Medical Physics
巻: 30(5) ページ: 555-558
10.1016/j.ejmp.2014.04.002
PLOS ONE
巻: 9(4) ページ: e94971
10.1371/journal.pone.0094971