本研究では、放射線照射によって発現亢進される分子をターゲットにし、正常と乳癌細胞間の相互作用を考慮した上で、それぞれの細胞における放射線照射後の分子メカニズムの解析を行っている。即ち、放射線照射後に、正常細胞の機能は損なわず、癌の再発や転移を防ぎ、放射線治療効果を上げるために役立つ知見を提示する事を目的としている。これまで、細胞外微小環境を考慮した3次元細胞培養実験系を用いて、放射線照射後の浸潤癌再発の細胞形態と細胞表面受容体やその下流分子の発現との相関に関して詳細を解析した。3次元細胞培養において正常の細胞極性構造を維持した乳腺上皮細胞では、放射線照射後の極性構造破綻や浸潤能獲得と伴い、インテグリンとそのリガンドの過剰発現が確認された。最終年度には、悪性度の高い乳癌細胞において、放射線照射後にインテグリンの発現をフローサイトメトリーによって解析し、細胞表面での発現上昇を確認した。さらに、細胞外微小環境だけでなく、インテグリンの細胞内輸送制御に関連する複数の細胞内分子の変動も確認された。これらのデータから、放射線照射後の正常の極性構造の破綻と関連した分子とその下流のシグナルの一端が解明された。また、乳腺の正常細胞だけでなく、高浸潤性乳癌においても、放射線照射後にインテグリンシグナルの発現上昇を伴う事が確認されたことから、インテグリンと関連分子をターゲットにすることによって、放射線照射後に正常極性構造を失うことを防ぎ、癌の浸潤性も抑制できる可能性が示唆された。これらの結果は、日本癌学会学術集会(ポスター発表)とGI-CoREシンポジウム(招待講演)にて発表を行い、論文として纏めている。
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