研究課題
本研究は、ヒトがんにおける、放射線治療への反応性と関連する遺伝子変異プロファイルの同定を目的とする。本研究施設で放射線治療される子宮頸癌患者の腫瘍生検検体から抽出したDNAについて、高速シークエンサを用い、ターゲットキャプチャシークエンス法により既知のがん関連遺伝子の変異・融合を検出する。得られた遺伝子変異情報と治療効果との関連を検討し、放射線治療反応性を規定する遺伝子の候補を抽出する。培養細胞実験系およびマウス移植腫瘍片実験系を用い、当該遺伝子産物の放射線照射への反応性に関する機能解析をおこなう。研究第二年度である平成26年度は、具体的には 以下の研究活動をおこなった。第一に、前向き症例の集積を継続し、平成26年度には約30例を集積した。今後も予定どおり集積を継続する。第二に、本研究施設に保存されている既採取試料に該当する症例群の背景因子と放射線治療成績の整理およびデータベース化を進めた。結果、解析対象候補症例が188症例へ増加した。さらに、ホルマリン固定パラフィン包埋試料から抽出したDNAを用いたシークエンス法を確立する目的で、上記188症例についてDNA抽出を完了した。これらの精製DNAの精度をNanoDropで解析した結果、全症例の80%でA260/A280値が1.8を超え、収量の平均値は約5 μgを超えた。以上から、これらのサンプルはターゲットキャプチャシークエンス解析に耐えうることが期待されたため、当解析に向けたライブラリ作製に着手した。また、本研究の進展に寄与すべく、がんの遺伝子異常に関する既報告の分析をおこない、その結果を総説論文としてJournal of Radiation Research誌へ報告した。さらに、既報告の分析から抽出した放射線感受性候補遺伝子について分子生物学的解析をおこない、その結果をPlos One誌へ報告した。
3: やや遅れている
本研究にエントリー可能な既採取試料が予想以上に多かったため、当該症例の臨床データ整理とDNA抽出作業に予想以上の時間を要した。このため、遺伝子異常検出の開始が遅れ、それに引き続く遺伝子異常と放射線治療反応性との関連解析に着手できなかった。
平成27年度は(3)、(4)、(5)、(6)をおこなう予定である。(3)遺伝子異常の検出:ターゲットキャプチャシークエンス法を用い、チロシンキナーゼ遺伝子およびクロマチンリモデリング遺伝子群を含む、各種がんにおける変異好発遺伝子群や遺伝子融合を検出する。具体的には、すでに稼働しているライフテクノロジー社のシステムを用い、解析遺伝子群に対応するゲノムDNA領域を濃縮し、Ion PGM高速シークエンサで平均depth 500の基準でシークエンスリードを取得する。また現在開発中である、ホルマリン固定パラフィン包埋試料から抽出したDNAを用いたシークエンス法を確立する。(4)遺伝子異常と放射線治療反応性との関連解析:治療応答群、非応答群それぞれ50例を目標に遺伝子異常の情報を取得し、臨床成績との関連を解析し、放射線治療反応性に寄与する遺伝子異常の候補を抽出する。子宮頸癌の放射線治療においては、初期治療に対する局所反応不良例や、初期治療から1年以内の早期に転移を認める症例が散見されることから、まずそのような症例に特徴的な遺伝子異常プロファイルについて解析を開始する。その後、2年無再発生存率、2年原病生存率など中期的臨床成績が集積し次第、順次解析をおこなう。個々の遺伝子単独の解析、および遺伝子群を機能別にグループ化しての解析を行う。(5)関連解析のvalidation:(4)の解析に使用しなかった試料について(4)と同様の関連解析をおこない、抽出された候補異常遺伝子の蓋然性を検討する。(6)候補異常遺伝子の機能解析:(5)において放射線治療反応性との関連がvalidateされた遺伝子異常に対し、培養細胞実験系およびヌードマウス実験系を用いた機能解析をおこなう。
遺伝子変異解析の開始の遅れに伴い、これに用いるための消耗品の購入が遅れたため。
平成27年度に当該購入予定商品を購入し、遺伝子変異解析を施行する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Journal of Radiation Research
巻: 55 ページ: 613-628
10.1093/jrr/rrt227.
Plos One
巻: 9 ページ: e115121
10.1371/journal.pone.0115121.