前立腺癌に対し、手術は根治が期待できる治療法であるが、勃起障害と尿失禁が術後の大きな合併症で患者のQOLを損ないうる。前立腺周囲に存在する陰茎海綿体神経をいかに温存するかが鍵となるが、もし術前の画像で神経を直接描出できれば腫瘍との位置関係や距離が正確に分かるので、神経温存が可能かどうか、温存例では最適な温存術式を決定でき、患者単位のテーラーメイド治療が可能になる。そこで、本研究では、中枢神経領域で神経線維路の描出に頻用されているMRIのテンソル画像を応用して、この陰茎海綿体神経の描出ができないかどうかを試みた。 まず、健常者ボランティアにより、テンソル画像の撮影パラメーターの最適化を図り、描出能の精度・再現性の確認を行った。 次に、前立腺全摘術が施行された患者を対象に、手術前と手術施行日の1~2週間後の2回、超高磁場の3テスラMRI装置を用いてテンソル画像を含むMRIを撮影し、MedINRIAというソフトを用いて、陰茎海綿体神経の本数を、baseとmidglandとapexレベルの3つの異なる高さで計測。陰茎海綿体神経が温存された症例と合併切除された症例のテンソル画像を比較。温存された側は本数に変化ないが、合併切除された側は劇的に減少が確認され、MRIのテンソル画像により陰茎海綿体神経の描出がある程度達成できていることが確認できた。この成果は、学会発表と論文発表を行った。 最後に、テンソル画像を含むMRI撮影後に神経合併切除の前立腺全摘除術が施行された患者の摘出標本をgold standardとして、前立腺と一塊に摘出された陰茎海綿体神経の描出、走行がテンソル画像でどの程度正確になされているかの診断精度を検証し、講演を行った。
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