研究課題/領域番号 |
25861105
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
笈田 将皇 岡山大学, 保健学研究科, 准教授 (10380023)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 時間放射線生物学 / 4次元放射線治療 / 放射線感受性 / 線量不均一性 / 細胞不均質 / 最適マージン |
研究概要 |
本研究では,腫瘍細胞の時間放射線生物学的な応答特性を考慮した放射線治療計画法の開発を進めている.今年度の研究計画では,1) 高度シミュレーション計算環境を整備し,時間放射線生物学モデルを構築すること,2) 4次元放射線治療(4D-RT)での照射時間遅延,強度変調放射線治療(IMRT)線量不均一性,α/β値の変動に伴う放射線治療効果への影響を評価することを目指し,研究を行った. まず,専用計算ソフトウェアおよびワークステーションを導入し,シミュレーション計算環境を整備した.4次元放射線治療(4D-RT)では,装置性能に関する物理特性および生物学的等価線量の1つであるBEDに着目し,シミュレーションで用いる時間放射線生物学モデルを構築した.これらの計算モデルを用いた解析では,IMRT治療計画における線量分割方法,線量不均一性,α/β値の変動に伴う最適マージンの変化の算出・評価を行い,さらに回復効果のパラメータを含めた腫瘍治療効果への考察を行った.また,マウス乳腺がん由来EMT6/KU細胞を腫瘍細胞モデルと仮定し,酸素分圧の違い,放射線増感剤(Etanidazole)の影響に関して複数Lineによる細胞間放射線感受性の変動を評価し,細胞不均質を考慮した臨床応用の可能性について検討した. シミュレーションによる腫瘍への放射線治療効果予測では,通常分割では総線量が高いほど,α/β比が高い細胞ほど高い治癒効果が得られるが,腫瘍細胞のα/β比の違いが最適マージンにおける系統誤差成分(Σ)に強く影響を受けることが明らかとなった.また,細胞間放射線感受性の評価では,αおよびβ成分は有意に酸素細胞に比べて低酸素細胞で有意に小さく,また変動も小さくなり,放射線抵抗性を強く示す結果が得られた.また低酸素細胞での放射線増感剤の使用により,α成分が改善することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において,目標としていた1) 高度シミュレーション計算環境を整備し,時間放射線生物学モデルを構築すること,2) 4次元放射線治療(4D-RT)での照射時間遅延,強度変調放射線治療(IMRT)線量不均一性,α/β値の変動に伴う放射線治療効果への影響を評価することについて,計画通りに遂行することができたと考える. 研究成果として,理想的な細胞実験環境,シミュレーション環境を構築することができたことが挙げられる.さらに初期報告では,細胞実験での結果とともにシミュレーションでの考察を加え,放射線治療において腫瘍内線量不均一性および細胞不均質(細胞間放射線感受性の違い)が局所制御に及ぼす影響と放射線増感剤の効果について言及することができた.これらの結果については,今年度の成果として論文発表する予定である.また,現在シミュレーションにて回復効果のパラメータを利用し,分割照射および寡分割照射におけるモデル解析を行っているが,この成果についても,細胞実験での検証も視野に入れながら次年度に報告する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
細胞不均質の影響による放射線感受性の評価に関する基礎研究については,細胞種によって様々なデータが蓄積可能であることから,今後も継続的に行う予定である.また,既に得られた基礎データの成果を一部利用し,臨床応用に向けて実際の患者症例をモデルとして放射線治療計画の最適化について検討を行う.加えて,腫瘍細胞以外にも副作用への評価として正常細胞での評価にも言及したいと考えている.特に,肺癌,前立腺癌に着目して,空間物理的線量分布と時間放射線生物学的な影響を考慮した次世代の高次元放射線治療の開発を目標としている. 基礎研究については,研究協力者との連携で既に新しい知見が得られ,継続的に結果を出し続けている.また,臨床応用に向けたシミュレーションに関しては,研究協力者との共同研究のもと,学部生に部分的な研究課題として,博士前期課程在籍の大学院生には解析作業の協力を受けており,効率的に結果を出せる環境を整えている.
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