本研究の目的は強度変調陽子線治療における線量分布検証を目的とした患者固有の人体ファントムの作成である。治療計画CTに基づいて人体ファントムを作成することで、体内における線量分布に限りなく近い分布を得ることが可能となる。 陽子線における阻止能を検討した結果、人体における骨構造を再現する物質として石膏を、筋肉等の水等価な領域についてはゼラチンを利用した。肺や口腔領域についてはウレタンフォームを利用した。治療計画CTから治療における照射範囲に限定した領域を抽出し、その範囲内のみで3Dプリンタによる骨構造の造形を行い、人体ファントムを作成した。 2次元検出器を利用した線量分布測定の結果、空気を含む領域付近での人体構造の再現性が不十分であったが、現行の3Dプリンタでは骨等価物質と水等価物質を併用して造形することは不可能であるため、造形領域内に空気が存在する場合には、高精度で口腔構造と骨構造を併せて造形することは難しい。そのため、空気が存在する領域では3Dプリンタを用いて作成した人体パーツを適切な素材で再成形する手法を検討した。 今回の研究では石膏を利用した3Dプリンタを用いて骨構造を造形する手法と樹脂を利用する3Dプリンタを利用して人体のパーツを作成し、適切な素材で再成形するという2つの手法で人体ファントムの作成を行った。造形領域内の空気の存在によって造形手法を変えることで、精度の高い患者固有の人体ファントムの造形が可能であることを確認した。
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