研究課題/領域番号 |
25861137
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
小西 輝昭 独立行政法人放射線医学総合研究所, 研究基盤センター, 研究員 (70443067)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイスタンダー効果 / マイクロビーム / プロトン / ギャップジャンクション / DNA二本鎖切断 |
研究概要 |
平成25年度は、マイクロビーム細胞照射法を用いたバイスタンダー効果及びレスキュー効果に関する解析に重点を置いて実験を進めた。まずは、ヒト肺がん由来A549細胞同士(A549-A549)間およびA549細胞とヒト肺由来正常WI38細胞(A549-WI38)間におけるギャップジャンクション(GJ)の有無について、GJの主要構成要素と考えられているコネンキシン43(Cx43)タンパク質をウェスタンブロット法を用いてその存在有無について検出した。その結果、両細胞にCx43が存在することを確認した。また、ギャップジャンクション(GJ)の機能性について、A549-A549、またA549-WI38間の異種細胞間においてもGJを経由したカルセイン蛍光色素の移動が可能であることを共焦点レーザー顕微鏡によるフォトブリーチ法を用いて確認した。つまり、異種細胞間であるA549細胞とWI38細胞であっても、GJを形成していることを確認した。照射には、放医研マイクロビーム細胞照射装置SPICEで導入される3.4 MeVプロトンを用いた。まずは、a) A549-A549、b)A549-WI38を共培養した2つの条件において、照射したA549細胞と非照射群のA549細胞とWI-38細胞として評価した。 照射細胞および非照射(バイスタンダー)細胞におけるDNA二本切断誘発についてヒストンタンパク質H2AXのリン酸化(γ-H2AX)を指標とし、免疫蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡画像からその蛍光量から定量した。その結果、A549-A549の場合、非照射のA549細胞に対してバイスタンダー効果として、γH2AXの有意な増加が検出された。しかし、A549-WI38の場合、バイスタンダー細胞であるWI38細胞には、γH2AXに有意な増加が検出されなかった。その反面、照射されたA549細胞に誘発されたDNA二本鎖切断の修復は、A549のみの集団比べて修復が促進されるような結果を得た。このことより、放射線照射による細胞応答は、異種細胞間の細胞間情報伝達によって放射線感受性が影響されることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト肺がん細胞A549及びヒト肺正常細胞WI-38間における放射線誘発バイスタンダー応答の解析を行うにあたって、A549-pBOS-H2BGFP細胞を樹立し、正常細胞との共培養条件の検討などを完了した。また、同細胞を用いて、A549-A549細胞間、WI-38-W-38細胞間、さらには、A549-WI38細胞間におけるギャップジャンクション(GJ)について、それぞれの細胞種においてコネキシンタンパク質が存在することを確認するとともに、カルセインAM蛍光染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いたフォトブリーチ法によって、その機能性も確認した。 次に、プロトンマイクロビーム細胞照射装置SPICEを用いたA549細胞へのみ、狙い撃ち照射を行い、照射粒子数500個に対するDNA二本鎖切断およびその修復について、照射後30分後、4時間後、8時間後で細胞を固定し、DNA二本鎖切断のマーカーであるヒストンタンパク質H2AXのリン酸化(γ-H2AX)を指標に免疫蛍光染色を行った。DNA二本鎖切断量については、蛍光顕微鏡画像を取得し、細胞核あたりのγH2AX量を測定した。また、非照射細胞についても、同様の解析を進めた。非照射細胞におけるγH2AXは、A549-A549の場合にのみ検出され、A549-WI38の場合にのみ検出されなかった。しかし、逆に、バイスタンダー細胞にWI38細胞が存在する場合、照射されたA549細胞のDNA二本鎖切断修復が、A549のみの集団のもの比べて早いという結果を得ることができた。このような本研究課題の軸となる項目について結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、マイクロビーム細胞照射法を用いたバイスタンダー効果及びレスキュー効果に関する解析に重点を置いて実験を進める。a) がん細胞のみ(A549-A549)、b)がん細胞・正常細胞(A549-WI38)、c)正常細胞のみの三パターンがある。今後は、培地介在性(Media Transfer, MT)経路の主因と考えられている窒素酸化物(NO)ラジカルのラジカル捕獲剤であるcarboxy-PTIOを培地に添加することにより、その寄与を確認する。ギャップジャンクション(GJ)経路の寄与については、GJ阻害剤である18 alpha-glycyrrhetinic acid (AGA)を用いる。または、carboxy-PTIOを併用することによって、MT経路とGJ経路の寄与について解析をすすめる。さらには、必要があれば、GJ促進剤である8-Br-cAMPを用いることにより照射細胞および非照射細胞に対する細胞致死誘発及びDNA二本鎖切断誘発を測定することも検討する。 A549-WI38細胞間の細胞膜間情報伝達において、WI-38細胞への線量付与が細胞間情報伝達に関与する可能性があることから、A549細胞とWI38細胞の両方への照射実験と比較する必要があると考える。また、平成25年度の結果より、照射細胞のγH2AXを指標としたDNA二本鎖切断修復の速度が、異種細胞間の細胞間情報伝達によって放射線感受性に影響すると考えられる。このことから、細胞致死誘発についてもバイスタンダー応答及びレスキュー効果が関係する可能性が高いため、アポトーシスの誘発についても解析を進める。
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