放射線がん治療のおいて非がん患部領域への線量付与量を減らすために、複数の方向からの多門照射によってその線量の集中性は格段に上がり、非がん患部への線量を軽減する、一方で、低線量放射線による被ばく領域が拡大する。この低線量放射線の影響としてバイスタンダー効果が考えられる。本研究課題では、がん細胞への放射線照射によってその周辺部に存在する正常細胞との細胞間情報伝達機構について、その細胞応答メカニズムを明らかにすること目的とした。また、細胞株としては、ヒト肺がんA549細胞とヒト肺正常WI-38細胞の二種類をモデルケースとし、1)非照射細胞のバイスタンダー応答、並びに2)照射細胞であるがん細胞のDNA損傷修復に対する影響について解析を行った。本課題では、特定の細胞にのみ放射線を付与することが可能な陽子線マイクロビームSPICEを活用した。 照射がん細胞の近傍にいる非照射細胞へのバイスタンダー効果をDNA二本鎖切断誘発(DSB)を指標に解析した。その結果、照射されたがん細胞より非照射細胞のがん・正常の両方にバイスタンダー効果を確認した。照射細胞との細胞膜間情報伝達経路によるバイスタンダー効果は、照射後4時間以降に顕著に表れ、また培地介在性経路によるバイスタンダー効果は、4時間後以降から24時間後にかけて顕著な増加を示した。また両経路による効果は、がん細胞より正常細胞に大きく現れた。これらは、細胞膜間情報伝達阻害剤または窒素酸化物(NO)ラジカル捕獲剤の添加によって抑制されることも確認した。また、照射されたがん細胞では、近傍に正常細胞が存在する条件の方が、そのDSB修復が促進される傾向が見られた。この効果は、NOラジカルを消去すると促進され、また細胞膜間情報伝達阻害剤を添加すると抑制された。本研究により照射されたがん細胞のDSB修復に近傍の正常細胞が重要な役割を担っていることを示唆している。
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