研究課題/領域番号 |
25861141
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 克俊 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 研究員 (20589650)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 炭素イオン線治療 / 放射線抵抗性がん細胞 / ヘテロクロマチン |
研究概要 |
がんにおけるX線と炭素イオン線抵抗性におけるヘテロクロマチンの役割を解明するため、マウス扁平上皮がん細胞株NR-S1細胞に総線量60GyのX線を照射して樹立したX線及び炭素イオン線抵抗性がん細胞株NR-S1-X60(X60)細胞、X60細胞よりクローニングされたNR-S1-X60-A3(A3)及びNR-S1-X60-H2(H2)細胞を用いて研究を行った。 これまで、X60、A3、及びH2細胞は、NR-S1細胞に比べて紡錘形の細胞を多く含むこと、ヘテロクロマチンドメイン数とX線及び炭素イオン線抵抗性は有意に相関することが示されている。これらの結果は、X線及び炭素イオン線抵抗性には上皮間葉転換やヘテロクロマチン関連因子が深く関与していることを示唆している。 そこで先ず、上皮間葉転換の発生について解析した。しかし、上皮間葉転換の指標であるE-cadherinと発現減少及びN-cadherinの発現増加は検出できなかった。 次に、ヘテロクロマチン関連タンパク質の発現や局在を免疫蛍光染色法により解析した。その結果、X60、A3、及びH2細胞におけるHP1βの蛍光強度はNR-S1細胞の約2倍高いことが示された。さらに、それぞれ4Gy及び2GyのX線及び炭素イオン線照射後のHP1βの核内局在の変化を解析した結果、照射後約3時間以内にHP1βは核内に拡散し、その後、その局在は照射前と同様に徐々に戻る(回復する)ことを発見した。また、この照射後のHP1βの局在回復はX60、A3及びH2細胞ではNR-S1細胞に比べて早く起こることも見出した。この現象とX線及び炭素イオン線抵抗性の関係を調査するため、現在、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤であるChaetocinやクロマチン構造の弛緩剤として働くChloroquineを用いて、解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度に得られた結果(X線及び炭素イオン線抵抗性がん細胞の樹立とDNA修復に関する結果)は論文誌への投稿を終え、現在は改訂中であることからも、研究は概ね順調と言える。 X線及び炭素イオン線抵抗性がん細胞株X60、A3、及びH2細胞では上皮間葉転換は誘発されていなかったことは想定外の結果だった。しかし、X線及び炭素イオン線照射後のX60、A3、及びH2細胞と親細胞株NR-S1細胞におけるヘテロクロマチンタンパク質HP1βの局在変化の違いを見出したことは、がんの放射線抵抗性におけるヘテロクロマチンの役割を解明するための重要なポイントになることから成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、次世代シーケンサーを使った遺伝子発現解析等も取り入れながら研究を行う予定である。 また、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤Chaetocinやクロマチン構造の弛緩剤であるChloroquine等はヘテロクロマチンと放射線抵抗性の解析には必須であるため、これらの薬剤を使った解析を継続し、がんにおけるX線及び炭素イオン線抵抗性の原因について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度後半の研究の進捗により計画を適宜調整した。それに応じて研究費を使用した結果、わずかに残額が生じたためである。 残額はわずかであるため、購入できる物品は限られている。研究に必須な物品であり、比較的安価な物品である培養液等に充当する予定である。
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