マウス扁平上皮がん細胞株NR-S1に総線量60GyのX線を照射して樹立したX60細胞と、総線量30Gyの炭素イオン線を照射して樹立したC30細胞を用いて、がん細胞のX線及び炭素イオン線抵抗性におけるヘテロクロマチンの役割について検討した。昨年までにX60細胞では、ヘテロクロマチンに集積するタンパク質であるHP1βの核内集積がNR-S1細胞に比べて高いこと、相同組換え(HR)修復に関与するタンパク質であるRad51のX線及び炭素イオン線照射後の核内フォーカス形成が他の細胞に比べて有意に亢進することを示した。これらはX60細胞のHR修復能は他の細胞に比べて高い可能性があること示唆している。そこで、各がん細胞株におけるシスプラチン感受性を評価した。その結果、X60細胞は他の細胞に比べてシスプラチンに対して著明に抵抗性であることが示された。シスプラチンはDNA鎖間架橋を生じさせるが、近年ではこれらの除去にHR修復が関わることが知られている。従ってX60細胞のHR修復能亢進がこの解析結果からも示された。次にHR修復の阻害剤であるB02による炭素イオン線増感効果を評価した。その結果、B02の併用によりNR-S1細胞とX60細胞において有意な炭素イオン線増感効果が得られた。しかし、B02の併用後のX60細胞の生存率は、NR-S1細胞よりも高かった。一方、C30細胞では、B02の炭素イオン線増感効果は確認出来なかった。これらの結果から、X60細胞のX線及び炭素イオン線抵抗性はHR修復能の亢進だけで説明できないことが示された。ヘテロクロマチンに集積するタンパク質HP1はHR修復を促進するとの報告もあることから、X線及び炭素イオン線抵抗性がん細胞ではヘテロクロマチン領域はDNA修復の支持に重要な役割を持つ可能性が示された。
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