研究実績の概要 |
(全体構想) 本研究は心移植における冷保存心グラフトを体外で修復し、再灌流後のグラフト障害軽減し、長期予後を改善する方法論を確立するために行った。心グラフトを既存の臓器保存液および我々が開発した臓器修復液内で低温酸素化し、低温下でのエネルギー状態、細胞死、生存シグナルの推移を解明し、生存方向に導く至適条件を見出すものである。 (結果) 酸素溶存UW液中での冷保存における細胞機能を検討した。心筋細胞はUW液中で酸素溶存下では酸化的リン酸化によってATPを産生した。UW液には酸化的リン酸化の基質が含まれないので、エネルギー源として残存エネルギー基質あるいは自己消化(Autophagy) によるタンパク分解 (アミノ酸生成)あるいはリン脂質分解 (脂肪酸生成) に依存すると推測された。解糖、ミトコンドリア複合体1,3,4、lysosome (sutophagolysosome) protease等の阻害剤を併用した検討により、低温下で心筋細胞はutophagyを介してエネルギーを産生していることが示唆された。また、これらの機能を低温下で14-3-3ζが積極的に制御している可能性が強く示唆される結果を得た。興味深いことに、このエネルギー産生(酸化的リン酸化)は必ずしも細胞障害を軽減せず、むしろ酸化ストレスを増強していることも明らかになった。実際、低温下でのエネルギー産生増強は軽度の酸化ストレス付加によって著明に阻害され、逆にある種の抗酸化物の併用によってエネルギー産生、細胞障害がともに軽減された。これらの結果は内因性抗酸化物が少ない心筋細胞においては、非生理的温度下での冠選択的灌流や灌流保存のような、酸化的リン酸化を促進する治療の有用性と共に、適切な抗酸化治療の必要性を示す結果と考えられ、今後の臨床応用に対して重要な知見を提供するものと考えられた。
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