研究課題/領域番号 |
25861152
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
井上 亜矢子 山梨大学, 医学部附属病院, 医員 (60570265)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳癌 / 乳癌サブ分類 / 上皮間葉転換 / 癌幹細胞 |
研究概要 |
Progesterone receptor (PgR)陰性、estrogen receptor (ER)陰性、HER2陰性のいわゆるtriple negative 乳癌をDNA修復酵素に異常のある群、basal marker陽性の群、間葉系マーカーが陽性の群に分類することが本研究の目的である。平成25年度は、当科で採取した乳癌検体を対照にtriple negative 乳癌のスクリーニングを施行した。PgR、ER、HER2の免疫染色を施行、さらにその増殖度と悪性度の検索のためにKi-67、CK5/6、CK17、p53の免疫染色も同時に施行した。増殖度と悪性度はLuminal Type 別に分類した。その結果Luminal Type Aが最も多く、次いでHER2陽性のLuminal Type B、HER2陰性のLuminal Type Bが同数で、いわゆるtriple negative 乳癌の頻度は最も少なかった。本研究ではこれらの分類を確実に施行することが最も重要であると考えられた。そこで一部の検体において、HER2の発現を確認するためにfluorescence in situ hybridization(FISH)も施行した。これらの分類に基づき、さらにHER2enriched、basal like、claudin-lowを分類した。続いてこれらの分類別に上皮間葉転換(EMT:epithelial mesenchymal transition/epithelial to mesenchymal transition)の有無を検索するために、抗EMT抗体の免疫染色を施行した。いずれの検体でも抗EMT抗体では染色されず、抗原暴露の条件、反応温度、反応時間等の設定を種々検討したが、染色されなかった。乳癌では上皮間葉転換が生じていない可能性があるとも考えられるが、いずれの対象検体も病期が早期で悪性度は決して高くないことから、さらに進行した病期で上皮間葉転換が生じている可能性があるため、進行癌で検討する必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の目標は、遺伝子発現プロファイリングによる乳癌の分類に、上皮間葉転換の有無による因子を付加した新分類、さらには癌幹細胞マーカーの発現の有無による因子も付加した全く新しい分類を作成すること。さらに作成された新分類に則って、いわゆるtriple negative 乳癌を、予後不良とされる基底膜細胞型(basal-like)と癌幹細胞マーカーが陽性であり、同じく予後不良とされるclaudin-lowに分類することであった。成果にも記載したが、平成25年度で当初の目標であったtriple negative 乳癌のスクリーニングは終了し、Ki-67、CK5/6、CK17、p53の免疫染色によるLuminal Type 別分類も終了した。さらにこれらの分類に基づき、HER2enriched、basal like、claudin-lowを分類した。しかし続いてこれらの分類別に上皮間葉転換の有無を検索する段階で、抗EMT抗体の免疫染色を施行したが、いずれの分類の検体でも抗EMT抗体では染色されなかった。抗体そのものの劣化も考えられたため、乳癌以外で上皮間葉転換が高率に認められる膵臓癌検体で検討したところ、染色されたため抗体そのものの劣化ではないことが明らかになった。そこで、抗原暴露の条件、反応温度、反応時間等の設定を種々検討するのに多くの時間が費やされたため、癌幹細胞マーカーの発現を検討するに至らなかった。しかし、進行した病期の乳癌で上皮間葉転換が生じている可能性があり進行癌で検討すれば、上皮間葉転換と癌幹細胞マーカーの検索は容易と考えられ、平成26年度に持ち越しになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度から持ち越した、いわゆるtriple negative 乳癌を、予後不良とされる基底膜細胞型(basal-like)と、癌幹細胞マーカーが陽性であり同じく予後不良とされるclaudin-lowに分類する。そのために、検体としてより進行した病気のtriple negative乳癌検体を確保しこれを使用する。さらにその両者でtriple negative 乳癌の臨床病理学的所見に差異があるかを検証する。ついで平成26年度に予定していた乳癌細胞株の樹立を試みる。具体的には、basal-like triple negative 乳癌を2株、claudin-low triple negative 乳癌を樹立する。これらの細胞株を使用して、CD44、CD24、ALDH1の発現を解析し、細胞株に乳癌幹細胞が存在するか否かを検討する。さらにこれらの細胞株をヌードマウスに移植し、上皮間葉転換がみられるか否かを抗EMT抗体を使用して検討する。ついで各樹立細胞株で、現在までに報告されている分子標的として、これらの細胞株は、HER2レセプターは発現されていないので、乳癌に高頻度に発現し、その浸潤、転移能に関与するといわれているムチンコア蛋白であるMUCの発現をそのタイプ別に明らかにし、basal-like triple negative 乳癌とclaudin-low triple negative 乳癌でのMUCタイプの相違を明らかにする。また、つぎの段階として、樹立細胞株に対して網羅的に遺伝子発現を解析し、up-regulateしたあるいはdown-regulateした遺伝子から、最終的に乳癌幹細胞、ならびにtriple negative 乳癌をbasal-like triple negative 乳癌とclaudin-low triple negative 乳癌のサブタイプ別に分子生物学的特徴を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、試薬、抗体等が定価より安価で購入できたため未使用金が生じた。 平成26年度は、樹立細胞株による上皮間質転換、樹立細胞株の癌幹細胞特性、生物学的特性および薬剤感受性の解析を行う。 上記の検討に必要な試薬、抗体、薬剤、ヌードマウスおよび不足しているディスポーザブル用品を平成25年度の未使用金と合わせて購入予定である。
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