本研究期間中の乳癌手術症例は208例であり、そのうちHER2陰性、エストロゲンレセプター陰性、プロゲステロンレセプター陰性のtriple negative乳癌は21例11%であった。一方、HER2が過剰発現している症例は49例24%であった。HER2は乳癌の分子標的治療薬の標的であるとともに、T細胞をベースとした免疫学的治療のターゲットでもある。研究代表者は、すでにHER2の過剰発現のみられる癌腫は、MHC ClassⅠをdown regulate することによりT細胞による殺細胞から逃避することを明らかにしている。平成26年度は、乳癌におけるHER2の発現とMHC ClassⅠの発現との関係ならびにMHC ClassⅠdown regulationの基本的機序について検討した。検討項目は、HER2、MHC ClassⅠの発現の程度を免疫染色科学的に評価し、それぞれの因子の関係を解析した。また、MHC ClassⅠの発現を制御するシグナル伝達経路を解明するために、HER2のinhibitorとしてsiRNAを使用した。結果として、乳癌では、HER2の発現は MHC ClassⅠの発現と逆相関し、さらに、siRNAによりHER2の発現を抑制すると、MHC ClassⅠの発現はupregulateされた。また、乳癌細胞株でMAPKの抑制薬であるPD98059の投与により、MHC ClassⅠの発現がupregulateされたことから、MAPKシグナル伝達経路をブロックすることにより乳癌細胞のMHC ClassⅠの発現が増強することを明らかにした。この結果は、MHC ClassⅠのを発現をupregulateすることで免疫治療を有効にすることが可能となりtriple negative乳癌の新規治療法となり得る。
|