研究課題
若手研究(B)
本研究は臓器の脱細胞化技術を用いて作製したブタ由来の小腸スキャフォールドに、小腸上皮幹細胞による作成に成功した小腸オーガノイドおよび血管内皮細胞を生着させ、小腸の消化・吸収機能を特徴づける「小腸壁における電解質・糖・ビタミン・アミノ酸の能動的輸送を行う」小腸グラフトを開発し、これを生体内で動脈・静脈と吻合し生着させることで、小腸不全に陥り小腸移植を必要とする小児・成人患者の新たな治療の嚆矢となることを目的とする。ブタ肝臓ですでに確立した脱細胞化法(Yagi H, Cell Transplant, 2012)を用いて、初年度はまずブタ小腸の脱細胞化を繰り返し行うことから始め、安定して脱細胞化した組織が得られるよう手技の定型化を図っている。これに引き続き、小腸が細部に渡り十分に細胞を保持するマトリックス構造を有しているか、顕微鏡的な観察を行っている。さらに、吻合可能な強度を持つ血管構造が保たれているか、これまで評価されていない内部構造の詳細について、肝臓で行なってきた評価法を用い、遺残DNA 解析(細胞成分遺残の評価)・免疫染色(マトリックス成分遺残の評価)・プラスチック注入法(血管構築の評価)・電子顕微鏡(内部マトリックス立体構造の評価)を用いて細部に渡って解析し、更に残存細胞外マトリックスの性質を蛋白質量分析を用いて評価していく計画であり、十分な量の脱細胞化小腸を確保できるように準備している段階である。人工的なマトリックスとは異なり、生体由来の骨格を用いることの意義を小腸において明らかにし、細胞生着時の細胞―マトリックス間インタラクションにおける重要なファクターとなる因子を検出したいと考えている。
3: やや遅れている
ブタ小腸の脱細胞化の手技の安定化・定型化に想定よりも時間を要したことが原因である。具体的には摘出した小腸の脱細胞化が時に不均一となること、薬剤の濃度や還流時間の調整、さらに還流中の感染制御が主な課題となっている。繰り返し行うことで精度は向上しつつあり、上記の問題点は克服し得ると考える。
本研究は下記の3段階から成り立つ。現時点の進捗状況は1にあたる。1. ブタの小腸を摘出し我々の確立した脱細胞化法により上腸間膜動脈の分枝に留置したカテーテルから3 日間にわたり微量のTrypsin/TritonX-100 を中心とした薬剤を還流させ、すべての生細胞を融解・除去する。得られた脱細胞化小腸スキャフォールドの構造を免疫染色・電子顕微鏡・プラスチック注入法・蛋白質量分析で評価する。2. すでに安定して培養可能な小腸粘膜上皮のLgr5+幹細胞から作製されたオーガノイド(消化器内科研究協力)と血管内皮細胞を脱細胞化小腸内で循環培養し、得られた血管構築の微小構造を免疫染色・蛍光ビーズ法で評価する。3. 各種細胞を生着させた小腸グラフトをブタへ移植し、消化・吸収能解析・免疫染色・グラフトからの排液量の計算などにより移植グラフトとしての臨床的な妥当性を評価する。
細胞培養のための培地を追加購入する予定であったが、細胞の発育が予想よりも遅く、新たな培地が年度内には不要となったため。順調に細胞の発育が進めば、培地を追加購入する予定である。
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