研究課題
若手研究(B)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に伴う切除後肝再生障害は、術後合併症の危険因子であるが、そのメカニズムは十分に解明されていない。代表者は、この肝再生障害に、ストレス応答が重要な役割を果たし、そのメカニズムとしてストレス誘導性脱リン酸化酵素Gadd34による翻訳制御因子eIF2αのリン酸化制御が関与する可能性を見出した。具体的には、高脂肪食(HF)誘導性の脂肪肝に対する70%肝切除後肝再生過程において、リン酸化eIF2α(p-eIF2α)が増強することを見出し、その脱リン酸化酵素Gadd34に着目した。実験には、薬剤・siRNAを用いたGadd34機能阻害モデル、及びトランスジェニックマウスを用いたGadd34過剰発現モデルを用い、HF条件下で70%肝切除実験を行なった。Gadd34機能阻害により、肝再生過程におけるp-eIF2αが増強し、細胞増殖の減弱、肝壊死巣の出現と共に、ALT・AST値の上昇を引き起こした。一方、過剰発現では、p-eIF2αが減弱し、肝臓/体重比の増加とALT・AST値の軽減を示した。また、細胞増殖能は対照群と同程度であるものの、細胞死を示すタネル陽性細胞が有意に減少した。さらに、より高度な脂肪肝を呈するレプチン受容体欠損db/dbマウスへの、アデノ随伴ウィルス(AAV)による遺伝子導入を行ない、Gadd34の肝切除後肝再生障害治療への有用性を検討した。Gadd34遺伝子導入により、70%肝切除後の肝臓/体重比増加、ALT・AST値減少を見出した。AAVによるGadd34の遺伝子導入が、脂肪肝での切除後肝再生障害に対する新規治療法としての可能性を秘めており、その臨床的意義は大きいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、本研究課題における目的の一つである、「NAFLDに伴う肝切除後肝再生の障害におけるGadd34の役割」を明らかにした。一方、「Gadd34による肝切除後肝再生の障害メカニズムの解明」においては、Gadd34による肝切除後肝再生への作用が仮説と異なっていたことから、研究計画の見直しが必要であったが、「肝切除後肝再生の障害メカニズムの解明」という点では、概ね順調に進められている。eIF2α/Gadd34が、脂肪肝に伴う切除後肝再生障害の発症に重要な役割を果たすことを示した。しかし、肝再生過程での細胞増殖や細胞死におけるこれらの役割の詳細なメカニズムは必ずしも明らかでないことから、更なる研究が必要である。
本研究課題では、1)NAFLDに伴う肝切除後肝再生の障害におけるGadd34の役割とともに、2)Gadd34による肝切除後肝再生の障害メカニズムを解明する事を目的としていた。しかし、Gadd34は、肝切除後肝再生を障害するのではなく、改善することが代表者らの研究により明らかとなったので、この点に関して研究計画の変更が求められる。Gadd34 による脂肪肝に伴う切除後肝再生障害改善には、細胞死の関与が示唆された。細胞死は、大きくアポトーシスとネクローシスに分類されるが、切除後肝再生過程におけるGadd34との関係は明らかではない。そこで、Gadd34阻害による肝再生障害における肝細胞死の検討を行なう。具体的には、Gadd34機能阻害による肝切除後肝再生過程で増強した1)アポトーシス関連因子 CHOPのsiRNAによる機能阻害モデルの肝切除後肝再生解析、2)ネクローシス関連因子RIP3のsiRNAによる機能阻害モデルの肝切除後肝再生解析を行なう。さらに、肝再生時の肝細胞増殖の関与に関しては、肝細胞増殖障害モデルとして作出している、肝臓特異的Cyclin D1欠損マウスを用いて、本研究課題の研究計画に則して実施する。
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Diabetes
巻: 62 ページ: 2266-77
10.2337/db12-1701
http://inoue.w3.kanazawa-u.ac.jp/