研究課題
若手研究(B)
回腸嚢炎は、潰瘍性大腸炎術後長期にわたり認められる合併症の一つで、下痢、下血、発熱、腹痛などの臨床症状を伴い、慢性化すると術後QOLを大きく阻害する。そこで本研究では、回腸嚢炎発症に関連する分子生物学的検討を行うことにより、病態機序を明らかにし、さらには回腸嚢炎発症のリスク因子、治療経過(重症化もしくは慢性化)と関連する因子を同定することを目的とする。これまで当科では、ステロイド高投与量例が回腸嚢炎の発症の危険因子であることを報告してきた。これらの検討に基づきステロイドシグナル伝達経路の一部であると考えられるFK506 binding protein 5 (FKBP51)の回腸粘膜での発現量を定量化し、回腸嚢炎との関連を検討した。FKBP51高発現群は有意に回腸嚢炎発症率が高く、回腸嚢炎発症に対する予測因子として有用である可能性が示唆され、これを発表、論文化した。潰瘍性大腸炎手術症例において大腸全摘時回腸粘膜および大腸全摘後回腸嚢粘膜のさらなる集積を行いFOXAなどの粘膜修復に関連する遺伝子の検討を行った。本研究ではFOXA1、FOXA3では回腸嚢炎発生と関連がみられなかったものの、FOXA2は回腸嚢炎発生に関連していることが示された。さらに回腸嚢炎患者および非回腸嚢炎患者の大腸全摘後回腸嚢粘膜よりmRNAを抽出後miRNA array を施行し、網羅的に回腸嚢炎関連miRNAを検索した。この解析により発現量が2倍差かつ有意差のある11種類のmiRNAが同定された。現在、回腸嚢炎関連候補miRNA 群の絞り込みを行い、target miRNAの同定している。今後はtarget miRNA が発現調節を行うmRNA の発現解析を、realtime PCR 法で行い、その相関の検討を中心に計画している。
2: おおむね順調に進展している
腸管粘膜修復に関連する遺伝子の解析、miRNA arrayによる回腸嚢炎関連miRNAの検索では有用な結果を得ることができた。対象サンプルは順調に集積されている。miRNA発現解析をすすめており、今年度、target miRNAをもとに、さらにmRNA の発現解析、タンパク発現解析などを進める必要がある。研究の妥当性が示され、今後も計画通りに進行するものと予想される。
術後回腸嚢粘膜におけるmiRNA array の結果に基づいて回腸嚢炎患者でmiRNAが高発現、もしく低発現となる候補遺伝子群を既存のmiRNA データベース(Traget scan, miRbaseetc)を用いて絞り込む。回腸嚢炎患者群と非回腸嚢炎患者群の回腸嚢粘膜を用いてmiRNA 発現と、そのtarget miRNA が発現調節を行うmRNA の発現解析を、realtime PCR 法で行い、その相関を確認する。有意な相関を認めた候補miRNA の回腸嚢粘膜における発現をin situ hybridization で、またその発現調節を行うと思われる候補mRNA に対し、免疫染色で蛋白発現を確認し、その局在と発現変化を回腸嚢炎粘膜、非回腸嚢炎粘膜で比較検討を行う。さらに実験結果を再評価し、新たな項目実験の必要性について検討する。
実支出額の累計額はほぼ計画通りであったが、未使用額2,876円の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の消物品費に充てる予定である。未使用額に関しては試薬や実験器具などの物品費の一部に使用する予定である。
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