マクロファージから分泌されるMFG-E8はアポトーシス細胞の貪食を促し、制御性T細胞(Treg)を介して炎症や自己免疫を抑制して個体の恒常性を維持していると考えられている。マウスにおける研究では、癌微小環境においてMFG-E8に誘導されたTregが抗腫瘍免疫を抑制している可能性が示されており、治療の対象として期待されている。我々はヒト食道癌細胞におけるMFG-E8発現と臨床病理学的因子、予後との関わりを検討することとした。 食道癌手術切除標本156例を使用した免疫組織染色ではMFG-E8強発現例において有意に遠隔転移例、術前補助化学療法(NAC)施行例の割合が高いことが示された。全生存率(OS)の比較では強発現例において有意に予後が不良であることが示された。NACの有無で層別解析をしたところ、非施行76例においてはMFG-E8発現はOSに関与しなかったものの、NAC施行84例においては強発現群の予後が有意に不良であるとの結果が示された。一方化学療法の臨床学的、病理学的効果とMFG-E8発現には相関は認めなかった。 続いてMFG-E8強発現が予後の悪化に関与する原因として抗腫瘍免疫の抑制に着目した。先の切除標本のうち80例を用いCD8とTregのマーカーであるFoxp3の免疫組織染色を行い、CD8(+)T細胞、Tregの発現を評価することとした。CD8(+)T細胞発現はMFG-E8発現と相関を認めなかったものの、Treg発現はMFG-E8の発現強度と相関することが示された。NAC非施行例においては上記の相関を認めない一方で、施行例においては同様の相関が示された。以上よりヒト食道癌ではMFG-E8発現はNAC施行に関与し、Tregを介した抗腫瘍免疫の抑制により予後の悪化がもたらされる可能性が示唆された。
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