前年度は集積したサンプル(肝不全患者(肝移植前患者)15人、肝移植後患者15人、コントロール10人)より肝不全患者は他の2群に比べ活性型グレリン(AG)と総グレリン(活性型+非活性型グレリン)中の活性型グレリンの割合(A/T比)が有意に高いことを確認し、グレリン代謝に肝臓が関与している可能性が示唆された。今年度は脱アシル化(代謝)酵素として肝臓由来のコリンエステラーゼ(ChE)に着目し、グレリン代謝を検討した。ChEは肝不全患者において他の2群に比べ有意に低値であり、さらにChEはAGやA/T比に逆相関を示した。また、肝移植前に比べ肝移植後にはA/T比は有意に低下し、ChEは有意に上昇していくという継時的な推移を示した。これらの結果から、肝不全患者では脱アシル化酵素であるChEが低下することでAGの脱アシル化が抑制されることが示唆された。これらの結果をふまえ、血中でのAGの脱アシル化作用(代謝)をin vitroで検討した。血清中に合成AGを加え、一定時間培養し、AGの脱アシル化割合を測定した。健常人血清に比べ、肝不全患者の血清中では脱アシル化が有意に抑制されていた。さらに、同様の実験系で、脱アシル化酵素阻害剤(ChE阻害剤)を用いてAGの安定性を検討した。健常人血清に比べ、ChE阻害剤を加えた健常人血清中では、AGの脱アシル化割合が有意に抑制されており、AGの安定性が向上したことを確認した。本研究から、肝不全患者は肝臓由来のChEが低下することでAGの代謝が抑制され、その結果AGやA/T比が上昇することが示唆された。またChEはグレリン代謝に関わる酵素の1つであり、酵素阻害剤によりAGの安定性が向上する可能性が示唆された。脱アシル化の阻害という観点から、外因性グレリンで行っていた治療(補充療法)から、内因性グレリンを用いた治療への転換・応用が可能となり、今後のグレリン関連治療の発展に進歩が期待でき、その医学的・社会的意義は大きいと考える。
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