研究課題
若手研究(B)
1)大腸癌進展におけるSPINK1の機能を解析するために、トランスジェニックマウスを用いて研究を進めてきた。SPINK1ゲノムDNAを改変した2KbのSPINK1 minigeneを作成し、マウスにてユビキタスに発現するCAGプロモーターを結合させた、トランスジェニック(Tg)マウスを作製した。このTgマウスでのSPINK1の発現は各臓器にて若干の差が見られるが、大腸にてもその発現をまず確認した。このマウスにアゾキシメタンとデキストラン硫酸ナトリウムを併用して炎症関連大腸癌を発癌させ、発生した腫瘍個数をカウントした。SPINK1のマウスホモログであるSpink3のヘテロマウス(Spink3+/-)では1匹平均2.0±1.5個であったのに対し、Spink3+/-・SPINK1Tgマウスでは8.3±2.3個と有意に腫瘍個数が増加した(p<0.05)。腫瘍体積も同様にSPINK1Tgマウスで有意に増加した。以上よりSPINK1がヒト大腸癌の腫瘍増殖に関わる可能性が示唆された。2)大腸癌の腫瘍増殖にSPINK1が影響を及ぼすシグナルについて検討した。Spink3野生型マウスとSpink3+/-マウスに発生した大腸癌からタンパクを精製し、主要な増殖シグナルをウエスタンブロッティングにて解析した。pStat3の発現がSpink3+/-で低下している傾向にあり、Spink3の発現がJAK-STAT系シグナルを調節することにより炎症関連大腸癌の発生に寄与している可能性がある。実験マウス数を増やし、さらなる検証を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
トランスジェニックマウスを作製し、発癌実験を行うことができた点。実験計画書の仮説通りにSPINK1過剰発現により大腸癌の腫瘍増殖が見られた点。
1) シグナル解析:前述したようにSpink3の発現が大腸癌の増殖に寄与していることが示唆されているため、JAK-STAT系シグナルを中心として、実験マウス数を増やし、さらなる検証を進める予定である。また、大腸癌細胞株を用いて、SPINK1 siRNAによる抑制系、SPINK1 minigeneによる過剰発現系を作製し、マウス同様に増殖シグナルにSPINK1が及ぼす影響についてウエスタンブロットにて検討する。2) 大腸癌患者の切除標本を抗SPINK1抗体を用いて免疫染色を行い、その発現について臨床病理学的因子などと併せて検討する。切除標本は300例程度を目標とし、同サンプルの癌部・非癌部での発現パターンも検討する。3) SPINK1に特異的に結合するタンパクの同定を目指し、質量分析計を用いて解析を進めている。
消耗品等、比較的安価での購入を行えたため。また、医局内保管の試薬の使用が可能であったため。今年度の結果をふまえ、動物実験や免疫染色を行うため、各種試薬や消耗品購入費に充てる予定である。
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Exp Anim
巻: 63 ページ: 45-53
Biochem Biophys Res Commun
巻: 446 ページ: 224-30
10.1016/j.bbrc.2014.02.111.