膵島移植はインスリン依存状態糖尿病根治の可能性を有する低侵襲治療法として確立が期待されているが、膵島分離・培養・移植プロセスでの膵島障害による膵島の喪失が不可避で、この治療の定着の大きな障害となっている。膵島分離プロセスにおけるClイオンチャネルによる細胞容積調節および小胞体ストレス応答の両機構を把握・制御し、膵島細胞の「恒常性維持」を達成し膵島の細胞死および喪失を回避することを目的とした。 Clイオンインディケーターを用いた共晶点レーザー顕微鏡下での連続的な観察により、膵島分離過程ではClイオンの細胞内流入とネクローシス型細胞死が起こりえることが確認された。またその過程でClイオンの流入を阻害する環境を作成すると、いくつかのモデルにおいて細胞死の抑制が得られることが確認された。 続いて、膵島分離・培養各ステップでの小胞体ストレス応答反応を、分子生化学的手法を中心に用いて明らかにする試みを行った。小胞体ストレスセンサーとして同定されている小胞体膜貫通タンパク質に注目し、Western blot法や免疫染色にて、小胞体ストレスシグナルの活性化の有無を捉えようとしたが、本実験系で惹起される小胞体ストレスは、当初の予想より小さなストレス変化でとどまっていることが明らかとなった。低酸素培養によりさらに強いストレスを与えても小胞体ストレスの強い惹起は確認されなかった。膵島分離・培養中により膵島が被るストレスを明らかにするために、各段階での培養膵島のmRNAを抽出して、Microarrayにてその遺伝子変化を網羅的に捉える実験を行った。その結果でも培養中には強い小胞体ストレスは惹起されていないことが示唆され、一方でTNFαやIL1βを上流因子とする各種の変化が強く惹起されており、これら炎症性サイトカインの制御が重要であることが示唆された。
|