研究課題/領域番号 |
25861225
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 英和 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (50451894)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 全置換型人工心臓 / 人工心肺 / 経皮的電力伝送システム / 遠心血液ポンプ / pwave / 心房収縮 |
研究概要 |
本研究の目標である超小型、軽量の全置換型人工心臓(TAH)を実現するため人工心肺を用いたTAHの装着方法の検討行った。市販の遠心型定常流血液ポンプを用い構築しTAHの循環維持が可能かを評価した。実験動物として健常成ヤギを全身麻酔下に正中切開し心臓を露出させた。上大静脈、下大静脈脱血、上行大動脈送血として、人工心肺(CPB)を開始した。心停止下に心室を切除し、三尖弁、僧帽弁後尖を切除し、左室流出路を僧帽弁前尖で閉鎖した。肺動脈を離団し、心臓側を閉鎖、心室断端にカフを介し市販の2台の補助人工心臓を装着した。右心系ポンプの送血管を肺動脈に、左心系ポンプ送血管をCPB送血管に接続し、徐々にTAH側ポンプの回転数を上げ、CPBを離脱し、TAHを構築した。心房収縮のTAH運転下における大動脈圧、左心房圧、肺動脈圧、右房圧、最適な左右バランスの回転数を測定した。また、純粋な心室機能を排除した心房機能を測定した。4症例で安定した循環を得ることができた。心房を温存したTAHの実験では、心電図、肺動脈圧、ポンプ回転数のすべてに心房収縮による波形を確認することができた。成ヤギ(80㎏)の実験の最大流量値として、右心系ポンプ回転数1350rpm下に平均流量5.2L/min、右心房圧8/0mmHg、肺動脈圧35/28mmHg、左心系ポンプ回転数2500rpm、平均流量5.2L/min、左心房圧18/3mmHg、大動脈圧114/102mmHgを得ることができた。遠心ポンプではポンプ前後の差圧で大きな流量変化を生じるため、心房収縮のような小さな圧変化でも拍動波が生じる。遠心型血液ポンプは前負荷が上昇すると流量が大きく増加し、左右のポンプのバランスが取りやすかった。また、肺動脈圧も低値に抑えることができた。心房を温存した遠心血液ポンプ型TAHにおいて心房収縮を残存させ心房波を残すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定常流血液ポンプによる全置換型人工心臓の実現のためには全置換型人工心臓に適した血液ポンプの開発とともにその埋込方法も重要である。本年度では臨床工学技士、麻酔専門医ら協力を得て市販ポンプを用いて埋込方法の確立を目的として人工心肺を用いた急性動物実験を5例行った。結果として全置換型人工心臓の循環を成功裏に維持することができた。また用いた市販ポンプはポンプ内抵抗の小さいものであり同じ回転数ではほぼ一定の差圧を発生するこのようなポンプを右心系に用いた場合流量が変化した場合にも肺に過剰圧がかからず、特段の制御をせずとも肺水腫を防げることが示唆された。この特性により心房拍動が維持された場合には末梢により大きな拍動性を持った血流が供給できるとともに心房の動きに基づく自律神経系を介した生理的制御が可能となる。他方、左心系に用いた場合には末梢血管抵抗の変化により血流量が大きく変化し安定しないことが明らかになり血液ポンプの最適な特性を見出す必要性がある。この実験結果は血液ポンプ開発方向性に大きく関与し、これまでの溶血、抗血栓の血液適合性の観点からの最適設計のだけではなく循環生理学的な観点からポンプの負荷応答特性を最適化する必要がることが示唆された。血液ポンプの開発についてはCAD、流体解析環境を整え開発を進めている。本研究の最終目標は完全埋め込み式のTAHであり体内に埋込れたデバイスに電力供給する経皮的電力伝送システムの開発が必須である。全置換型人工心臓の場合、左心補助人工心臓に比較して全血流量を駆出する必要があること、右心ポンプも駆動する必要があること、また制御系にもより多くの電力が必要であり経皮的電力伝送システムの出力電圧の低下が問題となる。そこで負荷電流が大きい場合に周波数を変更し力率を最適値に維持する制御を考案した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの心房脱血トータルバイパス、市販ポンプを用いた全置換の実験モデルにおいて心房心電図、心房拍動が維持されれば定常流の遠心ポンプでも血流を拍動的に維持できる可能性を見出しており全置換型人工心臓においても血行動態への影響の解析、生理的制御への応用を試みる。 本年度の人工心肺の実験で用いた市販後左心補助人工心臓では全置換型人工心臓として使用した場合解剖学的適合性が不十分で胸腔に収めることが出来ず、閉胸できないため慢性実験に進むことは困難であった。専用に血液ポンプを開発することが必須であることが明らかになった。駆動システムについては磁気回路設計が重要であり仮定磁路回路、有限要素法と段階を追って開発を進める。軸受けについては支持力を得る界面に血液が侵入する動圧軸受け、磁気浮上型は血栓形成の観点から限界が指摘されており、大きな剪断応力のかかるベアリングギャップに血液の侵入しない軸受けが求められている。また心房内の血流パターンを超音波エコーで観察し血流の淀みを低減する心房カフ形状を開発する。手術手技、術中管理、ポンプの形状(特にポート開口配置など解剖学的デザイン)、カニューラの形状などの改良を進めるために急性動物実験を継続的に行う。長期に信頼性を確保するためにはポンプの表面処理が重要でありDLC(Diamond Like Carbon),MPC (2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)ポリマーの表面コーティングを実施する。その後、1ヶ月程度の慢性動物実験により評価を行う。デバイスの改良、植込み手技の確立とあわせ、本研究では小柄な体格の患者への適応を実証するため慢性実験において体重20㎏以下の山羊を用いて1ヶ月の生存を実現し新しいらせん流入路遠心ポンプ全置換型人工心臓の実現可能性を実証する。
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