心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は日本のみならず世界の死因としても重要な基礎疾患となっている。その素地となる動脈硬化は最近の研究を通して“血管新生病”と認識されており、ヒト冠動脈では新生血管を認め、動脈硬化巣プラークの進展に関与していると推測される。この際、血管内皮増殖因子(VEGF)が血管新生において重要な役割を果たしていると考えられており、VEGF-A発現量と動脈硬化巣や新生内膜の程度との間に相関があるなどの報告がある。しかしながら血管新生抑制因子と動脈硬化巣との関連性に関する報告は皆無である。 色素上皮由来因子(PEDF; pigment epithelium-derived factor)は神経保護作用と血管新生抑制作用を有することが報告されている。PEDFはこれまでに哺乳動物の眼球で発見された最も強力な血管新生インヒビターであり、抗アポトーシス因子及び神経栄養因子の発現を誘導すNFκBが活性化すると、ニューロンの生存を促進する。最近の研究で、眼球におけるPEDFレベルの減少が、糖尿病性網膜症や他の網膜神経萎縮症に関連があることが示されている。さらに、PEDFの神経向性や抗血管新生の性質から、このタンパク質が、腫瘍の成長に関与する血管新生をコントロールする能力を持つことも示唆されている。一方、ヒト動脈硬化巣ではPEDFの沈着が不均一な部位に特異的に血管新生が発生し、その進展に関与することを明らかになっている。しかしながら、PEDFが種々の血管病変に関与するという直接的証明は、未だなされていないのが現状である。 本研究では、血管新生抑制作用を有するPEDFが各種血管病変形成に関与していることを証明し、PEDFの発現調整を通して動脈硬化性疾患の予防が可能かどうか、解明することを目的としている。
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