研究実績の概要 |
大動脈瘤は慢性炎症により大動脈壁の脆弱化と拡張が進行し破裂をきたす致死的疾患である。現時点では瘤病態を制御する治療法は確立していない。通常の動脈硬化病変と比較して瘤組織ではBリンパ球(B細胞)浸潤および免疫グロブリンの著名な沈着が特徴的であるが、その意義は不明である。B細胞と免疫グロブリンは慢性炎症病態に深く関わる可能性が高く、その意義の解明は病態制御に直結すると期待される。本研究では大動脈瘤の病態制御の実現のために、マウス瘤モデルおよびヒト大動脈瘤組織を用いてB細胞の役割を解明する。 申請者は大動脈瘤におけるB細胞の役割に着目して研究を展開してきた。その結果、ヒトおよびマウス大動脈瘤壁にB細胞・T細胞・マクロファージから成る細胞集塊と免疫グロブリン(IgG, IgM)が存在することを確認した。B細胞を欠損するμMTマウスでは、野生型と比較して瘤形成が抑制されており、免疫制御チロシンキナーゼSyk活性およびJNK活性の抑制、細胞外マトリックス(ECM)分解酵素MMP-9の低下とECM合成酵素LOXの増加がみられた。さらに、μMTマウスの瘤モデルに免疫グロブリンを投与するとMMP-9が増加し瘤形成が促進された。しかも、ヒト大動脈瘤培養において、免疫グロブリン投与によりIL-6分泌が上昇したことから、ヒト病態でも免疫グロブリンが重要であることが示された。以上の知見から、申請者はB細胞から分泌される免疫グロブリンが炎症および細胞外マトリックス分解を促進し、瘤形成を促進するとの結論に達した。
|