研究実績の概要 |
近年の研究から、大動脈瘤の本態は慢性炎症による組織破壊であることが明らかにされ、治療戦略として炎症制御が注目されている。大動脈瘤では炎症性サイトカインIL-6が高発現しておりSTAT3の活性も高いが、その意義は明らかにされていない。本研究では大動脈瘤病態におけるIL-6、JAK/STAT系の分子病態的意義を明らかにし、解明された病態に基づき、IL-6及びJAKを分子標的とした炎症制御による大動脈瘤の安定化・治療法の開発を目指す。 マウス実験においては腹部大動脈周囲にCaCl2を塗布して6週間で大動脈瘤が形成される大動脈瘤モデルマウスを使用した。このモデルにマウスIL-6受容体阻害抗体を投与し効果を検討する実験を行った。予備的検討から初回2mg/個体を尾静注、以後0.5mg/個体を腹腔内投与した。6週間投与後に屠殺し、瘤径測定、病理組織学的解析、分子解析を行った。マウスIL-6受容体阻害抗体投与群は、大動脈径の減少、病理組織において炎症細胞浸潤の抑制が確認された。免疫染色ではJAK/STAT系の抑制が見られた。Western Blot法ではJAK/STAT系、JNK、NFΚBの抑制がみられた。Zymographyでは蛋白分解酵素のMMP-2,9の発現抑制が見られた。Bio PlexではIL-6受容体阻害抗体投与群でIL-6, IL10が増加していた。DNAマイクロアレイ解析では免疫グロブリン関連蛋白の発現亢進がみられた。 またヒト瘤組織培養ではIL-6受容体阻害抗体の投与にて瘤組織から分泌される炎症性サイトカインの減少が確認された。組織遺伝子発現では、炎症ステージから破壊ステージにかけて免疫グロブリン関連蛋白の発現亢進がみられた。 マウスモデルとヒトの大動脈瘤組織において、共通の病態が存在することが示唆された。
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