研究対象となる原発性肺腺癌患者240名の組織ブロックより,マイクロアレイを作成した.1スライドに15例の肺癌組織を並べ,ROR1,EGFR,EGFR(L858R),EGFR(E746-A750)の免疫染色を施行した.結果,ROR1発現とEGFRの発現に正の相関がみられた.ROR1とEGFR(L858R),EGFR(E746-A750)には明らかな相関はみられなかった.次に,ROR1発現やEGFR発現が予後と相関しているかを確認するために質問紙法を用いて,肺癌患者240例の予後調査を行った.ROR1/EGFR発現と臨床病理学的因子について多変量解析を行ったが,これらには明らかな相関はみられなかった.癌免疫療法を構築するためには,腫瘍でROR1が発現していることに加え,正常組織でROR1の発現がみられないことが重要である.正常組織でROR1の発現がみられた場合,自己免疫疾患を誘発し,癌治療に支障を来す.肺腺癌を含む各種癌細胞株と正常細胞株(自己樹状細胞)を用いて,ウエスタンブロット法を施行した結果,癌細胞株の約80%でROR1の発現がみられた.それに対し,正常細胞株ではROR1の発現はみられなかった.更に,市販の癌組織アレイ,正常組織アレイでROR1の発現を免疫染色で確認したところ,正常組織アレイでのROR1発現はみられなかった.このことから,ROR1は癌免疫療法の有用なターゲットとなることが示唆された.
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