肺癌の新たな治療法として発展している免疫治療において,標的となる癌抗原としてROR1(Receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 1)に着目し研究した.まず,各種細胞株および手術材料におけるROR1の発現の検討を行った.肺腺癌の手術材料よりパラフィン包埋切片を作製し,市販の抗体を用いて免疫染色により発現を検討した.その結果,ROR1は88%,EGFRは81%,EGFR(L858R変異)は23%,EGFR(E746-A750)は21%で陽性であった.ROR1発現は染色強度を0(発現無し),1+,2+,3+(強発現)に分類し検討したところ,これらの染色強度とEGFR発現に正の相関がみられた.ROR1と予後を含めた種々の臨床像との相関を検討したが,ROR1と予後は相関が見られなかった.各種癌細胞株でのROR1発現をウエスタンブロット法で検討したところ,ROR1は肺腺癌のみでなく,肺扁平上皮癌,肺大細胞癌,乳癌,咽頭癌,舌癌,結腸癌,膀胱癌での発現を確認できた.腎癌,前立腺癌,NKT lymphoma,正常細胞では発現していなかった.Multiple tumor tissue arrayを用いてROR1の発現を検討したが,正常組織でのROR1発現はみられなかった.すなわちROR1は自己免疫疾患を引き起こす可能性が低く,癌特異抗原として可能性があると判断できた.ROR1は937塩基からなる膜受容体型偽チロシンキナーゼであり,メイヨークリニックで実際に運用されているヒトHLAクラスII分子にpromiscuousに結合可能なペプチド配列を選び出すアルゴリズム解析ソフトを用いて,2種類の候補ペプチドを合成,精製した. 現在この候補ペプチドを用いて,健常人からROR1特異的CD4+T cellの誘導を行い,さらにデータを蓄積している.
|