悪性脳腫瘍、特に神経膠腫では悪性度や進展範囲を正確に把握することは適切な治療方針を決定する上で非常に重要である。その活発な細胞増殖能を反映してアミノ酸代謝が亢進していることが知られ、アミノ酸をトレーサーとしたPET検査が利用されている。一般的にメチオニンがトレーサーとして用いられているが、チロシン(18F-α-methy l tyrosine;FMT)をトレーサーとしたPET検査の悪性脳腫瘍における集積機序は解明されていない。まずFMT-PETの画像解析を行った。T/N比は全神経膠腫症例において悪性度(WHOグレード)とに有意な相関関係がみられた。病理組織型では星細胞系腫瘍において悪性度との間に有意な相関関係がみられたが、乏突起膠細胞系腫瘍ではその傾向はあるものの有意な相関関係はみられなかった。SUVmax、T/N比は星細胞型系腫瘍に比べて乏突起膠細胞系腫瘍で高い傾向にあった。次に病理組織学的解析を行った。チロシンやメチオニンはL型中性アミノ酸輸送蛋白(LAT)による能動輸送で細胞内に取り込まれタンパク質合成に利用される。LATのアイソフォームの一つであるLAT1が神経膠腫細胞や血管内皮細胞に高発現していることが報告されており、腫瘍細胞への取り込みに関与していることが推測される。病理組織診断用に手術摘出で得られた腫瘍組織(既存試料)を用いてLAT1の発現を解析した。腫瘍細胞においてLAT1は細胞質、細胞膜に発現しており、悪性度(WHOグレード)に比例して高発現する傾向にあった。血管内皮細胞においては悪性度に関わらずLAT1の発現を認めたが、悪性度(WHOグレード)の高い症例ほどLAT1を発現する血管密度は高い傾向にあった。以上よりFMT-PETにおけるトレーサーの集積機序の1つとして腫瘍細胞および血管内皮細胞におけるLAT-1の発現の程度が関与することが示唆された。
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