研究課題/領域番号 |
25861270
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
大野 真佐輔 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, その他 (40402606)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 養子免疫療法 / 免疫抑制 / 遺伝子療法 / 細胞療法 |
研究概要 |
EGFRvIII特異的抗体およびCD8, CD28, 4-1BB, CD3zの遺伝子情報をもとにこれらの遺伝子をタンデムにつなげたCAR遺伝子を合成した。同様にmiR-17/92の遺伝子情報をもとに遺伝子を合成した。これらの遺伝子はそれぞれSINベクターに組み込まれ、レンチウイルスベクターとして、ヒトT細胞に遺伝子導入された。CAR遺伝子の発現はフローサイトメトリーにて、miR-17/92の発現はリアルタイムPCRを用いて確認することに成功した。最終的にこの二種類のレンチウイルスベクターを同一T細胞に連日導入することによりCARとmiR-17/92を同時に発現するT細胞を作成することに成功した。 CARを発現するT細胞のEGFRvIIIに特異的な細胞障害能はクロム放出試験で確認された。またmiR-17/92を発現するCAR発現T細胞においては化学療法中の患者体内を想定したテモゾロミド存在環境下の腫瘍細胞との共培養において、優れた増殖能を示し、また抗アポトーシス効果を示した。 続いてEGFRvIII発現脳腫瘍マウスを用いたCARおよびmiR-17/92発現T細胞による免疫療法を行った。CARを発現するT細胞で治療したマウスの多くにEGFRvIII発現脳腫瘍の消失を認めたが、miR-17/92の導入の有無によるCAR発現T細胞の治療成績に差を認めなかった。しかしながら、EGFRvIII発現腫瘍細胞を治癒したマウスの脳内に再移植する再発モデルにおいて、miR-17/92を発現するCAR発現T細胞で治療した群はmiR-17/92を発現しないCAR発現T細胞で治療した群に比して速やかな免疫応答を示し、腫瘍の再発を予防した。 この結果を論文とし投稿し、受理された。(Ohno et al. Journal for ImmunoTherapy of Cancer 2013, 1:21)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の目標はCAR遺伝子の合成とmiR-17/92遺伝子の合成を行い、それぞれをレンチウイルスベクターに組み込んだ後、ヒトT細胞に導入し、これらの遺伝子の発現を確認することであった。これらの目標は早い時期に達成し、平成26年度の目標へ進むことができた。 また平成26年度にはin vitroによる実験では作成されたCARの腫瘍特異的な殺細胞効果を確認し、かつmiR-17/92の発現によるアドバンテージを模索し、in vivoによる実験では脳腫瘍マウスモデルを確立したのち、CARやmiR-17/92を発現するT細胞を用いた治療を行い、CARの腫瘍特異的な治療効果を確認するとともにmiR-17/92を発現によるアドバンテージを模索する計画であった。これらの計画もある程度の結果を得ることができ、この中間の結果をもとに論文を公表することができた。 以上の結果より当初の計画以上に研究は進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
miR-17/92のT細胞における役割はいまなおよくわかっていない。今回公表した論文においては、担癌患者の抗がん剤治療環境下の低免疫状態を模したビトロの実験によりmiR-17/92発現CAR-T細胞の活性能の維持と、脳腫瘍再発マウスモデルの実験によりmiR-17/92の速やかな免疫応答を報告することができたが、いずれの現象も機能的な解明がなされていない。 担癌患者の治療環境下における低免疫状態を模したビトロの実験を今後も進めていく予定である。つまりグリオブラストーマ患者においては前述のテモゾロミドだけではなくステロイドも多く投与されている。ステロイドは免疫細胞のアポトーシスを誘導するといわれており、miR-17/92の抗アポトーシス作用が関与していると期待される。また担癌患者の癌微小環境は免疫不応を誘導するといわれており、免疫抑制系のサイトカインの影響下でのmiR-17/92の関与も興味がもたれる。 動物実験モデルで示された、再発脳腫瘍に対するmiR-17/92発現CAR-T細胞の速やかな免疫応答の機構の解明を進めていく予定である。miR-17/92はT細胞のメモリー化にも関与しているといわれており、CAR発現T細胞にて治療中もしくは治癒したマウス体内のCAR発現T細胞のポピュレーションを調べることを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に海外学会に出席、発表を計画していたが、学会開催日が平成26年4月の初めと本年度よりわずかにずれ込んでいたため、当該年度の実支出として計算されなかった。なお前述の学会には参加し、研究成果を報告したため来年度の実績として報告する予定である。 NOGマウスは非常に高価で一回の試験でかなり数を消費し、失敗を繰り返すと物品費用が数倍に跳ね上がるが、幸い一度の購入でよい結果を出すことができ、当初計画した物品費用を下回った。 当該年度に得られた成果を海外に発信するために海外学会に積極的に参加する予定である。 また、今後の実験においても動物実験が必要となるが、実験の性質上非常に高価な免疫抑制マウスを使用する。実験が順調に進まない場合は予定以上にマウスを使用する可能性があり、次年度使用額を次年度に充てる予定である。
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