脱髄疾患は原因不明の難治性疾患であり、慢性進行性の経過をたどるため患者は長年様々な神経症状に苦しむことになる。現在有効な治療法は見つかっておらず、治療に必要とされる医療費や社会的損失は大きい。そこで我々は髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトの発生に必須である転写因子Olig2に注目した。Olig2は胎生期のみならず成体でも発現しており、とくに脊髄損傷部分で発現が誘導される。Olig2がオリゴデンドロサイト発生に重要な役割を持つこと考えると、脱髄の修復に関与すると考えられる。したがってOlig2の機能解析を行うことで、脱髄の再髄鞘化を促し、脱髄疾患の治療が可能となると考えた。Olig2は神経発生において神経細胞である運動ニューロンとグリア細胞であるオリゴデンドロサイト、それぞれ特定のクラスへの分化スイッチングを行うユニークな転写因子である。オリゴデンドロサイトはマウス胎生12.5日(E12.5)頃より脊髄腹側から生じる。そこで、E12.5のOlig2ノックアウトマウスと野生型マウスから脊髄を採取し、遺伝子発現プロファイルを比較しようとした。しかしながら採取できる脊髄組織はわずかであり、さらにその腹側部分での比較は困難であったため、脊髄全体での比較をおこなうこととした。いくつか発現に差のある遺伝子が同定された。それらをもとにin situ hybridizationで発現パターンを調べた。しかしながら、オリゴデンドロサイトの発生に関与すると思わるような発現パターンを示すものは認められなかった。一方、予想外ではあるが、運動ニューロンの分布に一致した発現パターンを示すものが同定され、運動ニューロンの発生に関与する可能性があると考えられた。今後はOlig2抗体を用いて陽性細胞をセルソーターで収集し、遺伝子発現パターンを比較する予定である。
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