研究課題
頭部外傷(TBI)は交通事故や高所からの落下などにより引き起こされる神経外傷性疾患であり、急性期の死亡や全身性機能不全を免れても、慢性期に認知障害や情緒障害のため社会適応障害(高次脳機能障害)が顕著となる症例が多く報告されている。申請者は、骨髄間葉系幹細胞(MSCs)から分泌される組織保護性タンパク質、TNFα stimulated gene/protein6 (TSG6)を脳外傷モデルマウスに投与した結果、外傷性脳損傷の抑制に加え、記憶障害と鬱様行動が改善されることを明らかにした。またこの時、好中球の障害部位への浸潤と、血液脳関門の崩壊が抑制されていた。以上の結果からTSG6は神経障害の抑制を改善していることが明らかとなった。 また新しく確立したMRIを用いた脳障害の評価法によってMSCの2回静脈投与が神経障害を顕著に抑制することが明らかとなった。またこのとき静脈投与されたMSCの大部分は肺にトラップされ、障害部位である脳にはほとんど到達していないことが分かった。このことから肺にトラップされたMSCは何らかの障害シグナルを受け取りTSG6を分泌し、それが脳に到達することによって神経障害を抑制している可能性が示唆された。また、このMSCが分泌しているTSG6のタンパク質量は外部から投与して有効な効果が得られる量に比べて極めて少量であることが明らかとなり、MSCはなんらかのタンパク質輸送システムを持っていることが示唆された。 さらに海馬における神経新生を調べたところ、TSG6の投与によって新生ニューロンのマーカーであるDCX陽性細胞が有意に増加していた。このことからMSCは神経保護と神経新生の促進の両面から頭部外傷後の高次脳機能障害を抑制していることが示唆された。
3: やや遅れている
研究者の多忙及び健康上の理由により実験計画に遅延が生じた。
当該年度の研究により、MSCは神経新生を促進していることが明らかとなった。今後はそのメカニズムについて明らかにしていく予定である。
現在研究者は全快しており、来年度は本年度行えなかった骨髄由来間葉系幹細胞の神経新生促進効果の解析を行う。未使用額は動物購入費・試薬代と論文準備費用・学会発表の経費に充てることとしたい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 図書 (3件)
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