研究概要 |
運動器の変性抑制は重要な課題であり,末梢神経でも加齢に伴う有髄線維の減少から転倒リスクにつながることから,神経保護や軸索再生の改善はロコモティブシンドロームの抑制に対する重要な治療戦略である.我々は神経系組織にPTH レセプターが発現する事実に着目し,PTH 製剤が末梢神経系組織でも効果を及ぼすと仮説した.また骨と神経は神経損傷における骨脆弱化の進行など関連が深いが,末梢神経系組織における骨代謝関連因子の発現と役割に関する研究は少ない.我々は神経系組織の発生における骨形成蛋白(bone morphogenetic proteins:BMPs)の重要性に着目し,末梢神経再生におけるBMP-7発現・局在変化を検討した.8週齢SDラットを用い,血管クリップにて坐骨神経軸索断裂モデルを作成,本モデルは歩行解析の結果,4-8週で機能回復が確認された.正常群,軸索断裂群(術後1週,2週,4週,8週)の坐骨神経を採取し,BMP-7,BMP receptors(BMPRs),Smadの発現を免疫組織学的,Western blotting(WB),real time PCR法で評価した.発現細胞はS-100,CD-68,P75NTRとの二重蛍光免疫染色にて評価した.結果,BMP-7は免疫組織学的には術後1週,2週で損傷部に有意に増大し,発現細胞は二重免疫染色にてP75NTRと共発現しており,脱髄鞘化したSchwann細胞であることが示された.BMPRsも同様の変化を認め,WB,PCRにおいても同様に発現増大を認めた.さらにBMPシグナルの下流であるp-Smad1/5/8も術後1週,2週で発現が増大し,4週以後には減少した.今回の検討からBMP-7は神経再生時のBungner's bandsの形成や神経栄養因子として軸索伸長誘導や再髄鞘化に関与することが考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書であげた平成25年度の計画に従い,動物モデルの作成と免疫組織学的検討、Western blot、Real time PCR による定量的解析を行い,末梢神経再生におけるBMP,BMPRs,p-smadの発現変化と局在を確認した,
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今後の研究の推進方策 |
H25年度の検討の結果から,末梢神経再生の過程においてBMP7は損傷後に有意な発現の増大を認め,その発現細胞は脱髄鞘化したSchwann細胞であることが示された.さらにBMPRsとシグナルの下流であるリン酸化Smadも同じ時期に発現を認めたことより,神経再生時のBungner's bandsの形成や神経栄養因子として軸索伸長誘導や再髄鞘化に関与することが考えられた.次にPTH 製剤の投与によるBMPs の内因性発現の変化や軸索再生に与える影響を神経挫滅モデルを用い,免疫組織学的,蛋白,遺伝子レベルでのBMPs 発現を評価し,末梢神経損傷時の神経細胞変性を抑制するかも検討する予定である.PTH 製剤投与にてBMPs 発現の変化を認めない場合も,神経系組織にはPTH レセプターを多数認めることから,同様に形態学的変化や標的組織を評価する.さらにBMPs シグナル以外の伝達メカニズムを検討するため,Schwann 細胞の純粋培養技術を用いてin vitro に検討することも計画している.
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